さらに、瑛子の話は耳を塞ぎたくなるほどひどいものだった。



絶対的存在である親に裏切られた子供達は、何を信じて生きていけばいいのだろう。



自分が今まで感じ、考え、言動してきたことはすべて、両親の愛情に恵まれ、ある程度の豊かさを保証された所で生まれてきたものであって…



受験勉強で難関を突破して得意になっていたことも、勇介との関係をかけがえのないものにしようと苦悩していたことも、



ただ、甘えや驕りの上でふんぞり返っていたに過ぎないということ。



その上、自分勝手な理屈を押しつけ、結局は彼の一番嫌うことを言って怒らせてしまったこと。



もし、自分が勇介や瑛子のような境遇で育ってきたなら、今見えている世界はまったく違うものになっていたのではないか。



瑛子に打ちのめされた夜は悔しくて悔しくて涙が止まらなかったのに…



時間が立てば立つほど、勇介への愛憎も、瑛子への恐れの念も薄らいでゆき、ただ、自分が限りなくちっぽけでつまらない人間に思えてくるのだった。