呼吸を整え、生唾をゴクリと呑み込み、それから迷いを断ち切るように、えいっと肩に手をかけた。



「待った?」



動揺を見せまいと、とびっきりの笑顔で。



「へっ?」



振り向いた男は、美里を見るなり素っ頓狂な声を上げた。



「行こっ」



「な、な、なっ?!…」



男は声を詰まらせた。



美里は小さく目配せすると、男の耳元で祈るように囁いた。



「へんなやつに追われてるの。お願い、助けて」



「えっ?」



男は駅の出口から次々と流れてくる学生の群れに目をやった。



「ダメ。見ちゃ」



「あ、ああ」



男は素直に目を伏せた。