「あたしは本当の父親の顔も名前も知らない。母が男をかえる度、そいつがあたしの父親になった。

働かないわ、酒は飲むわ、ったくロクなやついなかったよ。そのくせ、世の中への不満や鬱憤をあたしをいたぶることで発散させやがった。

あたしはいつも怯えてた。でも、誰も助けてくれなかった。からだも心もボロボロだったけど、友達も、先生も…母親さえも見て見ぬふりだった。

どん底を生きてきたあたしには、勇介の痛みが手に取るようにわかる。

あいつが求めてるのはきれいごとの説教じゃない。すべてを受け入れてくれる母親のような絶対的な愛なんだ。

いい?あたしは勇介のためなら何だってやるよ」



瑛子は自分の上ずった声に気づくと、少しばつが悪そうにソファの背にもたれかかり、前髪を何度も何度もかき上げた。