美里は最後の力を振り絞って抵抗を試みた。
「大学生だからって、わたしはそんなお嬢さんじゃないわ。
父は公務員で、兄が家にお金を入れて、母もパートに出て…
今だって伯母の家に住まわせてもらってるし、バイトでもしなきゃ日々の生活も困るくらいの平凡な田舎娘よ。
生きる世界だなんて…大げさ過ぎるわ」
瑛子は灰皿に吸いかけの煙草をグチャグチャに押しつけると、憎悪に燃える目で美里を睨みつけた。
「そんなこと言ってんじゃない!あたしが言ってんのは、どれだけ親に愛されて育ってきたかってことなんだよ!!」
頑固だけれど誠実な父と、いつも心配ばかりかけている優しい母の顔が交互に浮かんだ。
美里にはもう、返す言葉が見つからなかった。