思わずシートの切れ目へ視線を投げかける。
笑い声の主は、漫画を立ち読みしていたごくフツーの男子学生。
野球帽を後ろ前に被り、スポーツバッグからバットをポコンと覗かせている。
少々気の早い半袖のTシャツに、かかとを履き潰したスニーカー。
あっ、また笑った。
店頭で立ち読みしているにしては、随分無神経な笑い方である。
なんてノーテンキなやつ。
こういうやつって悩みなんかないんだろうな…。
その時、美里の頭の中でパチンと閃く音がした。
そうだ!
顔はよく見えないけど、今どき野球やってるなんて、そう悪いやつじゃないだろうし…
よーし。
美里は意を決して、一歩一歩踏みしめるようにその男に歩み寄った。