「そんなに笑わないでよ。待たせるだけ待たせておいて…ほんとは…合わせる顔なんてないってわかってる。わかってるんだから…次に会う時はちゃんと…」



ふいに背中を抱き寄せられ、美里はビクンと身をすくめた。



「無理すんな」



ドクドクドクと逸る鼓動を悟られまいと、美里はからだを硬くした。



「そう意地を張るな。わかってたよ。最初っからおまえには無理だってな。俺がさっさとケリつけてやるよ」



わずかに残っていた理性が“ケリ”という言葉に反応した。



「嫌なの。井ノ原くんのせいにしたくないの。

もともと大して好きでもないのに、いい加減な気持でつき合ってたわたしが悪いのよ。

井ノ原くんには関係ないわ」



そこまで口にした途端、背後の空気が凍るような気配があった。



「…んだと?」



「えっ…」