『じらされるのも悪くないよ』



別れ際の勇介の笑顔が、流れゆく景色の中に浮かんでは消える。



やがて、街並が茜色に染まり始める頃、電車はとうとう目的の駅に着いてしまった。



そうなると、せめて勇介の住んでいる家を見てみたくなる。



美里はそんな自分に驚き、あきれていた。



駅前の商店街を抜け、街角に点在する住居表示を頼りに歩くこと二十分。



ようやく見つけた“アカツキ荘”は、想像以上に古い、薄汚れた建物だった。



なんとなく見てはいけないものを見てしまったようで、美里はようやく我に返った。



やっぱ帰ろう。