賢と別れ、一人家に帰った美里を待っていたのは自己嫌悪の嵐だった。
別れを切り出すどころか、結局言いたいことの一つも言えず、お土産までもらってすごすごと引き下がってきたのだ。
『これはアキアカネ。腹部が赤くて、胸の黒色条がだんだん細くなってるでしょ。これが途中でぷっつり切れてるのがナツアカネで…』
だから何だって言うのよ。
美里はお土産のトンボのキーホルダーを指でピンと弾き、大きなため息をついた。
『どうしても会いたくて…気がついたらここまで来てた』
賢と決着をつけるまで、決して勇介には会わない。
そう誓ったはずなのに…
『きれいだ。この俺が、中学生みたいにドキドキしてる』
シャツにアイロンをかけてみても、借りていたDVDをつけてみても、心に思い浮かぶのは勇介のことばかり。