金沢での祭の夜、このまま一緒に東京へ帰ろうと勇介は言った。
それは二人が一つになるということを意味していた。
二人がこうして繋がっていることが世界で一番大切なことだと感じながら、美里は最後の最後、首を縦に振ることができなかった。
確かに上京早々、クラスメートに乱暴されそうになったことや、ストーカーにつきまとわれたことが彼女を臆病にしていたが、男女間のそういう行為に抱いていた嫌悪感は勇介には湧かなかった。
愛し合う二人が結ばれるのは、とても自然ななりゆきのように思えた。
もったいつけようなんて余裕もない。
ただ、賢への後ろめたさが、飲み損ねた苦い薬のようにザラザラと舌に残り、美里の決意を鈍らせたのだ。
翌日、美里は賢と話がついたら会いにいくと約束して勇介を東京へ見送った。
勇介は大袈裟だなと笑ったが、美里は二人の関係を一時の感情ではなく、かけがえのないものにするために、次に会う時は真っ白な気持で勇介の胸に飛び込みたかったのだ。