夕暮れのグランドにたたずむ少年の横顔が浮かび上がると、美里の胸はキュンと小さな音を立てる。
野球部のピッチャーで、背が高くて、悲しいくらいきれいな目をしていて…
女の子の胸をときめかすすべてを生まれながらに持ち合わせているような男の子と、特別な関係になったことがあった。
大した想い出はないが、放課後に待ち合わせて一緒に帰ったり、兄のCDを借りるために、美里の家に立ち寄ったことも二、三度ある。
でも、それも美里の一方的な思い過ごしだったのかもしれない。
彼は結局、何の意志表示もしないまま、ある日突然転校してしまった…。
中学二年冬―
こうして、美里の遅過ぎる初恋は淡雪のように儚く消えた。