明るい春の陽射しが車内に溢れている。
心地よい揺れに身を任せ、うつらうつらしていた真中美里(マナカ ミサト)は、独特の抑揚のあるアナウンスで、ふと目を覚ました。
あれっ…あ、乗り過ごしちゃった?
慌ててホームを振り返り、窓ガラス越しに駅の様子を覗き込んだ美里は、それが目的の駅でないことを確認すると、ほっと一息ついて再び身体の向きを戻した。
しかし、そんな束の間の安堵感も、次の瞬間には木っ端微塵に吹き飛ばされることになる。
目の前で吊革にぶら下がっているのが、あの男だったのだ。
身体中の血液が逆流する感じがした。
まただ…。
美里は肩に掛けていたバッグを膝の上に置き直し、素知らぬ顔で目を閉じた。
そして、こんな時期に、うっかりミニスカートなど履いてきてしまった自分の迂闊さに歯がゆみした。
ここ数日見かけなかったので、つい油断したのだ。