「行ってきます」
翌日、雅人くんとの待ち合わせの公園へと足を運んだ。
薬も持った。透明化は、足首辺りまで広がっていた。
今は、4月の中旬。今年は、桜の開花が例年より遅かったらしい。残りの余命は、後3ヶ月〜4ヶ月ほど。
長いようで、短い。そんな時間だ。




目的地の新川公園は、木々が生い茂っていて、木々のせせらぎ音はとても綺麗な場所だ。
近くには、高台もあるから絶景スポットとしても有名だ。
特に、夜は夜景が綺麗。6月になると、ここは田舎だから蛍がよく見える。
待ち合わせ時間の5分前に着くと、雅人くんは先に来ていた。
「唯菜。久し振り…」
「うん、久し振り…」
言葉が続かない。
「あのさ、あの時【死んでも良い】なんて言ってごめん…。
あれから、考えた。ごめん…。本当に、ごめん。ひどいこと言ったよな…」
そんなに謝られたら、素直に謝ってしまう。
「わたしこそ…、ごめんなさい…」




「唯菜、俺は唯菜が好きだ。好きです。擬似恋人関係じゃなく、ちゃんと恋人関係になりたいです」
「いいの…?わたしは、こんなにも、」
わたしが言おうとした言葉を遮って雅人くんは言う。
「俺は、初めて唯菜を愛した。そして、息苦しかった世界から救ってくれたのも唯菜なんだ。だから、一緒にいてほしい…」
「ありがとう、ありがとう…。雅人くん、ありがとう…」
泣いた。
ポロリポロリと零れ落ちる涙を雅人くんは、服の袖で拭いてくれた。
ギュッと抱きしめられ、驚いているとキスをされた。
一瞬、何が何だか分からなくなったけれど笑顔を浮かべられた。


君と一生分のキスの1回目。
キスをされながらわたしは思った。
やっぱり、わたしは雅人くんが愛おしい。どうしようもなく、好きだ。
3ヶ月~4ヶ月で終わる終わりが見えている恋をわたしは最後の年にした。
「唯菜、送るよ」
家まで送ってくれるらしいがわたしの帰らなくてはいけない所は病院だ。
話をした方がいいのだろうかと思っているとまた胸痛に襲われた。
ハァ、ハァと浅い呼吸を繰り返していると、雅人くんが背中をさすってくれた。薬を飲まなきゃいけないのに、視界が霞んでいてよく見えない。
ついに、わたしは倒れこんんだ。
「唯菜⁉唯菜⁉」
そう呼ぶ声が段々遠くなっていきわたしは意識を失ったー。












ー雅人sideー
【死んでもいい】。
そう、ずっと思っていた。でも、唯菜が真剣に怒っている様子を見て考えを改めた。
今日は、仲直りと俺の本当の想いを伝えたくて公園にやってきた。
久しぶりに逢う唯菜はなんか痩せていた。
そして、俺はついに本当の想いを伝えると唯菜はとても泣きながら喜んでいた。
でも、帰るとき唯菜は倒れた。倒れる直前、浅い呼吸をしていた。背中をさすっても収まらずパニック状態になっている間、倒れてしまった。
急いで、救急車を呼ぶと大学病院に連れていかれた。親族と伝えると救急車に同乗することを許された。
救急車に乗っている最中、唯菜は呼吸が止まってた。唯菜のその姿に、俺は恐怖した。
急いで、隊員が酸素吸入器で呼吸を確保していた。
病院に着くと、唯菜はICUに運ばれ何分か経つと唯菜の家族がやってきた。
俺に礼をすると、唯菜の父親が看護師に容態を聞いていた。
聞こえにくかったが、危険な状態という言葉が聞こえた。
呆然とする俺に唯菜の母親が俺を休憩室に呼んだ。
唯菜の母親は、自販機で俺の飲み物と自分の飲み物を買い席についた。
「驚かせて、ごめんなさい…」
「いえ」
俺は、唯菜の姿をみて思った。唯菜は、病気なんじゃないかって。
「唯菜から、聞いているかしら…?」
「え?何を、ですか?」
俺の知らない様子に驚いていた。それから、浅く息をつき言った。
「唯菜は、病気なの…」
絶望した。
「唯菜が…?どんな、病気ですか…?」
「唯菜が言っていないなら、わたしが言うことではない…。唯菜に聞いてみると良いわ。唯菜が言うとは思えないけど…」
「分かり、ました…」
唯菜の母親は、言いにくいことなはずなのに言ってくれた。そこだけでも、感謝の言葉を述べた。


今日1日、唯菜はICUから出てこなかった。
不安な気持ちを抱えたまま、一夜が明けた。

唯菜は、翌日には一般病棟に戻れたそうだ。
唯菜の母親が病室の部屋番号を教えてくれた。

朝、急いで身支度を済ませ唯菜の入院する病院へと足を運んだ。
病室は、605号室。
何か特別なのか個室ということだそう。だから、安心して入ってほしいと言われた。

ノック音を立てると、唯菜の声が聞こえてきた。
ホッと安心して扉を開けると痩せて驚く表情を浮かべる唯菜の姿がいた。
でも、痩せてこそいたが血色はいい。昨日の姿とは結びつけられない。
「唯菜、大丈夫?」
「え…、あ、あぁ!大丈夫!大丈夫!」
「唯菜。ちゃんと、教えて。唯菜は、病気、なの…?」
「………」
唯菜は、口をしばらく割らなかった。
俺も、黙っておいた。
そんな状況下に、唯菜はいたたまれなかったのか話をしえくれた。
「うん…、病気…」と。
続けて、聞いたこともない病名を告げた。
「透季病…」
本当に、聞いたことがなく調べようと思った気持ちが唯菜は分かったのか調べないで、と言った。
理由を告げなかったから、何か深刻な問題でもあるのかなと思い聞かなかった。
「雅人くんにね、お願いがあるの…」
「何だ?」
「花火が見たい。君と。そして、ゲームとかもっともっと!色々な場所に行きたい!」
唯菜は、必死そうだった。俺は、いつの間にか頷いた。
すると、唯菜は喜び破顔する。
その顔がどこか懐かしかった。
唯菜と俺はどこかで会ったことがある気がする。
微かに覚えている記憶を辿ったが、これといった収穫は見られなかった。



雅人くんに、本当のことを言ってしまった。
余命のことは、どうしてもいえなかった。
もう少しで終わってしまう人生の願いを思わず口走った。
「ありがとう」
わたしは、そう言った後激しい頭痛に襲われた。病気とは、関係がない。
「ーだい、ーじょうぶー、ーだよ」
「まーくんってー、呼ぶね」
途切れ途切れに聞こえてくる男の子の声と幼い頃のわたしの声。
君は、誰?
雅人くんに似ていた。
思い出せない。でも、どこかで君とわたしは出会ったことがある。
それを一生を終えるまで調べたかった。

雅人くんは、しばらくして帰っていった。
お母さんとお兄ちゃんがやってきた。
「唯菜。唯香の納骨。どう、する?」
「行きたい……」
「体調は?」
「今のところ、平気。ねぇ、お母さん……」
「なぁに?」
「わたし、雅人くんと小さい頃に逢ったことがある?」
「・・・・・・・。分からないわ」
でも、少し寂しそうな顔をした。
絶対に、何か知っている。
そう、確信した。
「お兄ちゃんは?」
お母さんでは、ダメだと思いお兄ちゃんに話を振るも分からないという表情を浮かべながら首を横に振る。
「あ、唯菜。伝え忘れていたんだ…」
「これから1ヶ月在宅療養に切り替えることになったから」
在宅、療養?
「何で…?」
理由を聞くと、お母さんは何かを言いかけたがすぐに閉口した。
「行きたいところ、行こうね」
あえて、お母さんは明るく言っているのだろうなと声色から思った。



夜、就寝時間前に電気を付け脚を見ると踝辺りからだったのが脹脛(ふくらはぎ)の真ん中まで透明化が進んでいた。
触ると、そこだけ血が通っていないみたいにヒンヤリと冷たかった。
透明化していない腕は温かい。
もう、脚は透明化していつかは歩けなくなってしまうのかも。
いや、今まで当たり前のように歩けていたのが奇跡だったんだ。
病気になってからなってからとなる前の当たり前が随分違う。
ただ、未来は同じだったはず。
わたしは、母親の櫻井碧の元に生まれる。
幼少期は、音楽系が強い私立幼稚園へと。
小学校は、公立小学校。
中学校、高校は一貫校へ。
あぁ、大学行きたかったなぁ。
就きたい職業に就いて、バリバリ働いて絶対にかっこいいだろうなぁ。
そう思いながら、眠りについた。