ー雅人Sideー
夢をみた。
幼い頃の夢だ。
唯菜と、双子の兄が出てきた。
これは、俺が忘れていた記憶。
唯菜は、真人(まひと)のことをまーくんと呼んでいた。
真人。
俺の双子の兄。
真人は、もういない。
真人は、拡張型心筋症を患っていた。
5歳の時、真人は自分の病気を知らなかった。
いや、その時は誰も知らなかった。
めまい、胸痛、息苦しさ。
親が久しぶりに家に帰ってきて真人がそのことを伝えると病院に連れていく様を俺はみた。
俺わまわをも付いていった。
ただ1人の兄を俺は、心配だった。でも、俺は分かっていたんだ。真人が病気だってことに。
真人は、病気が分かって即日入院した。
両親は、悲しみからなのか真人が病気だって分かってから仕事に没頭するようになり真人のお見舞いは数回しか来なかった。
真人は、唯菜と高校で再会することを約束していたらしい。
それを知ったのは、真人が亡くなる1ヶ月前のことだった。
「雅、人。僕のかわりにゆいなちゃんと約束した高校行ってくれる…?」
「何でだよ!真人が行けばいいじゃん!」
「僕は、もう高校生まで生きられないって思ってるの」
「何で…。そんなに…」
「予感がするんだよ」
「お願いだから、真人。生きて…」
「心臓移植、来たらしばらく生きられるから」
心臓移植。
幼い俺だったけど、真人の病気を調べまくった。
真人の病気は、心臓移植をしないと生きられないと知った。
絶望。
最近は、それしか味わっていない。
でも、真人はいつも笑顔だった。
俺がお見舞いに来るといつも温かい笑顔で迎え入れてくれる。
「雅人!」
この日は、元気が良かった。
何だろうと思い、聞いてみると桜の花びらが舞ってきたとのことだった。
「これを、僕はゆいなちゃんだと思ったんだ」
この言葉を聞いたとき、俺は思ったんだ。
真人は、唯菜の事が好きだったと。
「そっか」
真人の元気は、死が近くにあるという予告だった。
だって、真人は数日後死んだから。
8歳だった。
人は、中治り現象と呼ばれる現象で死期が近い人が一時的に元気になるというものがあるらしい。
真人もそれが身に起こったのだ。
理由は、脳が長く生きようとして、幸福感を生み出すホルモンが分泌されるためというものらしかった。

それが俺の8歳までの記憶だった。

夢から醒めると、かつて真人の部屋に来た。
真人の匂いは、時間とともに薄れてしまい今はもう感じられない。
でも、真人が過ごした時間はそこにあった。
机の上に写真立てがあった。
俺と唯菜、真人との最初で最後のスリーショットだった。
フッ、と微笑んでいるとハラリと何かが落ちた。
それを拾おうとしたら身体が固まった。
手紙だ。
2通、ある。
『ゆいなちゃんへ』
   と
『雅人へ』。
紙は、10年前だから日焼けしていた。
真人が書いてくれた最初で最後の手紙。
俺は、便箋を開きそっと手紙を開いた。