家に帰るとすぐ自分の部屋に引きこもった





わかっていたはずだけど




目の前にすると


こんなにも


つらい












しばらくすると



留守番よろしく





買い物に出かけるお母さんの声を聞いた





誰もいなくなってから1階へ降りると

玄関のベルがなった


インターフォンで相手を確認すると



立っていたのは


ひかりさんだった

「はい」


チェーンを外してそっと扉をあけた



「こんばんは。か、小笠原先生に住所聞いたの。良いかしら?」


ひかりさんの手には近所のケーキ屋の箱



「どうぞ」


扉を全開にし、ひかりさんを招き入れる


「ありがとう、お邪魔します。あ、これどうぞ」


「……ありがとうございます」




小さな何気ない仕草一つ一つに自分との違いを見せつけられる

「何飲まれますか?」


リビングに案内し、カウンターキッチンの中に入った


「お構いなく……紅茶貰おうかな。煎れるの上手だって聞いたから」





「……はい」


一度だけお兄ちゃんが褒めてくれたことがある


それが嬉しくて何度も練習した



お兄ちゃんに美味しいって言ってもらいたくて






「どうぞ」


「ありがとう。良い香り。そうそう」


もちあげたカップをソーサーに戻すとひかりさんは徐に鞄を開けた



「これ千里ちゃんのじゃない?」






ひかりさんの手にあったのはくまのストラップ



……



切れちゃったんだ






お兄ちゃんから貰った宝物

「ありがとうございます」





もう……



「小笠原先生なら大丈夫よ。熱も下がったし」




私が俯いていたのをお兄ちゃんを心配しているととったのだろうか?



ひかりさんはそう言った


「……朝野さんはお兄ちゃん、小笠原先生のことをどう思っているんですか?」





口が勝手に動いていた



「……大事な、尊敬できる先輩かな」



「お兄ちゃんの思いに応えようとは思わないんですか?」



もう止まらない。醜い嫉妬だってことはわかってる


でも口を開くとそんなことはすべて頭の片隅に追いやられた




「……少しだけ昔話に付き合ってくれる?」




まっすぐ私の瞳を見たひかりさんの表情(かお)はすごく切なそうな、悲しいもの





「……」





「私も17の時に恋をした。したって言うのはおかしいかな。物心ついた時からずっと好きだった人がいたの」



ひかりさんは右手の薬指に嵌っていた指輪を外すと私にも見えるようにテーブルの上に置いた




「これは?」



「大切な人からもらったもの」



「私にとってはエンゲージリングかな」



紅茶を一口飲むとひかりさんはもう1度私に視線を向けた


「千里ちゃんは小笠原先生のこと?」




「ずっと好きです。物心ついた時から。でもお兄ちゃんは……いつも妹扱いして、少しは並べるかなって思った時はもうひかりさんしか見ていなかった」






嫌だ






こんな自分





お兄ちゃんの心を得れない悔しさ涙なのか?






ずっと堪えていた失恋の涙なのか?
















落ちた涙の理由はわからなかった