『放課後、屋上で待ってます。』
何だこれは。机の中に何か入っていると思って取って見たらまさかの手紙。これで何回目だろうか。この手紙を貰った日は何を隠そう゛告白゛である。違かったら?そんなのはありえない。何度も経験している私なら分かる。まぁ、返事は決まっているのだけど…。
「お、紗奈おはよー。んー?何か合った??」
相変わらず、友達の香織は察しが良い。でもこの事は言いたくない。言ってはいけない。
「おはよ!ううん、何もないよ!」
変に広められても困る。理由は簡単。居心地が悪いからだ。それにしてもこの手紙は誰からだろうか。名前が載っていない。まずは名乗れ、そう思ってしまう私は可笑しいだろうか。手紙を書いた人はきっと恥ずかしさを抱えながら書いたのだろうかと思うと、少し面白い。

――― 「紗奈ー!今から遊びに行かない?!」
「あー、ごめん。この後用事あるから…。また誘って!」
集中していたらいつの間にか授業が終わって放課後になっていた。屋上に行かなきゃ。と思っていたら香織が声をかけてくれたのだ。
「えー!しょうがないかー…。分かった!また次の機会にね!!」
正直誘われる事は嬉しい。でも、まずはあの手紙を片付けなくては。緊張なんてしない。私は慣れている。自分で言うのもあれだが、私は何故かモテる。顔が整っているらしい。香織が教室を出て行き一人になった後、私は屋上へと向かう。もう手紙の彼は居るのだろうか。そんな事を考えながら普通のペースで歩いていく。放課後の学校内は部活で声を出す生徒、吹奏楽部の楽器の音色と様々な音が聞こえる。その中歩くのは何だか楽しい気分になる。こんな事を考えていたら、屋上の扉の前へ来てしまった。1度深呼吸をしてから扉を開ける。今日は天気が良い。気持ちのいい微風が私の長い髪を靡かせる。一度瞬きをして目の前を見ると、一人の男子が背を向けて立っていた。
「ねぇ。机の中に入っていた手紙、あれって君の?」
彼は驚いて私の方へ振り返った。驚くのも無理はない。急に声をかけられたのだから。
「あ、…。はい!そうです!前から気になっていて…。あ!俺の名前は松下 塁です!」
「ふーん。松下君ね…。あははっ。初めて聞いた名前ー。一応私も名乗っとく?姫乃 紗奈でーす。」
だいたい、私がフレンドリーに話せば相手は話しやすくなる。
「え、あ、はは。認知されてないかー。」
何を当たり前の事を。と思ったが言葉に出す前に堰き止めた。
「まぁいいや。これから知って…。えっと…、姫乃紗奈さん、俺は貴方が好きです。付き合ってください!!」
割と唐突な告白に驚きを隠せなかった。返信は決めているから困ることはないのだけれど、話していてタイミングというものがあるだろうに。
「…。ふふふ、びっくりしちゃった。そっか、私の事好きなんだ。…分かった。良いよ、付き合お!」
「え…、良いの?え!?まじで?!っしゃあ!ありがとう!よろしくな、紗奈。」
「こちらこそ。」
私が決めていた答え。それは俗に言う告白OKだ。断るのは面倒くさい。それに―――。
「じゃぁ俺、この後部活あるんだ。また明日な!!」
「え、う、うん!また明日ねー!」
彼は屋上を離れてしまった。屋上に取り残される私。何だかなー…。何処か寂しい思いを心に秘めながら、空を見上げる。今日は快晴。雲1つない空。なんて綺麗なんだろう。私もこの空みたいに綺麗な心を持ちたいな…。
「ねぇ、君何してんの?そんなにフェンスから身を乗り出したら危ないよ?分かんないの?」
え…、気付かなかった。この人の存在に。ていうか、それよりも、私にこんな発言するなんて。馬鹿にするような話し方、初めてだ。
「えっと…、すみません。注意、ありがとうございます。」
お辞儀をしてこの場を立ち去ろうとした。もう用事は終わった事だし。
「あのさー、ちょっと待ってくれない?」
私の腕を掴んで引き留めた。何だろうか。まだ何かあるのだろうか。私は名前も知らない彼を見詰めた。
「君さぁ…。何股するつもり?」
一瞬何を言っているのか分からなかった。゛何股するつもり?゛何を言っているんだこの人は。いくら何でも失礼だ。礼儀を知らないのか彼は。
「変な事言わないでください。失礼です。だいたい貴方、誰ですか。」
「あはは。怒んないでよ。俺は2年の青野 朔。君は…、姫乃紗奈。だよね?同学年。さっきの告白聞いてた。」
「え…。はぁ?盗み聞き?」
「失礼だなぁ。偶々だよ、偶々。」
青野朔…。聞いた事、ある。確か学年2位。1位の私と並ぶ人。
「あ、でさ、姫乃って彼氏沢山いるでしょ?何人いんの?告白されたら全員OKーって…。やば。」
嫌な笑い方。馬鹿にしているようにしか思えない。
「いつから盗み聞きしてるの?高1から?」
「まぁね。」
何を考えているか分からない。楽しい話はしていないのに、ずっと笑っている。気味が悪い。
「で?何人いんの。」
私はすぐ答えが出なかった。何人だろうか。告白された回数=彼氏の数な訳だから…。
「15回?告白された、かな…?」
「え、じゃぁ15人彼氏いんの?姫乃って真面目そーなのに、案外屑なんだね。」
「…は?」
ほぼ初対面の人にここまで言うか?普通。なんだ此奴は。
「私は屑じゃない!!何も知らない癖に!勝手に決め付けないで!!」
私はそう言葉を吐き捨てて屋上を去った。外は先程の天候とは違って私の気持ちを表すかのように大雨が降っていた。