「相当な見返りが期待できます。恩を売ることだって」


「そんなもので売れるのは、自分の命だ。…()られてやる気はないが」




 確かに…お父さまの弱みをこの人に握られていることにもなるのか。

 自分本位に考えている人だから、この話に乗ってくれる可能性は低いかもしれないけど…。

 ――そのヤシロさまを雇えば安心なのではございませんか?


 私はごくりとつばを飲んで、自然に出るトーンで八代さんに話しかけた。




「八代さん。あなたはまだ知らないことがあります。私の本当の名前は、四條(しじょう)瑠奈(るな)四條(しじょう)元嗣(もとつぐ)の一人娘です」


「…四條」




 つぶやいて、八代さんはじっと私を見つめる。

 真意を探りづらい人だけど、関心を買えたような気がする。