殺気と呼ぶのがしっくり来るものをまとっていた人とは思えない、ほんの少し優しい響きを持った声を聞いて、おどろいた、ような気がする。

 でもすぐに、お父さまがなんで私を、と出口のない思考に取りつかれて、いつあの人が去ったのかも分からなかった。

 1人になったと気づいた私は、襲われた恐怖もあって、すぐに運転手に電話した。




『はい…?』


「今すぐ迎えに来て、カフェの近く!」


『えっ、お嬢さま!?なんで…』




 慌てて、続く言葉をのどの奥に仕舞い込んだように『か、かしこまりました』と答える声を聞いて、思わず電話を切った。

 そのときからだ。

 周りの人間が、誰も信用できないんじゃないか、と思い始めたのは。