無我夢中で暴れていたとき、ふっと空気を吸えた瞬間があった。




「っは、げほっ、ごほっ、はぁっ、はぁっ」




 一気に肺に入ってきた空気にむせて、しゃがみこみながら(せき)と呼吸を繰り返す。

 首を絞める手の感触はもうない。

 首に触っても、自分の手の感触しかしない。


 それじゃああの男は、と顔を上げると、苦しみにあえいでいる顔が視界に映った。

 キャップが脱げていて、まったく知らない顔であることがハッキリ分かる。

 だけど、そんなことも気にならないくらい、私を襲った男のうしろに目を()く存在があった。




「目的を吐け」




 筆で書いたような濃い眉の下に、体の芯が(こご)えるような、底冷えのする鋭いつり目があって。

 低い声で一言しゃべっただけなのに、のど元にナイフを当てられたような緊張感に襲われる。

 そんな状態ですら、見惚れて頭が真っ白になってしまうような、きれいな顔。