「もう、婚約者がいるなんて…残念だ」


「どなたなのでしょうか?八代さまと仰られる方は」


「至宝に違わぬ美しさだ…」




 会場のざわめきを聞きながら、警備にあたる俺は思った。

 事実無根に尾ひれがついていくうわさにも劣らない一族。

 それが日本一の名家、四條家だ。


 今日、世間に姿を見せた一人娘のご令嬢もそれに違わないことは、堂々とした立ち姿から見て取れる。

 …さすが、日本一のお嬢さまだ。




「あのとき、依頼を断ったの…もったいないことしちゃった、かな」




 落ちこぼれ転校生に、お姫さま。

 様々なあだ名がついた、男にしては小柄な西條(にしじょう)くんの姿を、ステージの美女に重ねてクスリと笑った。




[終]