聞き覚えのある声がして、身を硬くする。
コツコツと革靴のような足音が近づいてきて、私の正面にある扉が開いた。
そこから部屋に入ってきたのは…。
「お、と…さま…っ」
「おや、瑠奈。男の格好なんてして、はしたないじゃないか」
にこりと、人の好さそうな顔で微笑むお父さまだった。
垂れ目の目尻には笑いジワがきざまれていて、唇は常に微笑みを絶やさない。
どこからどう見ても、優しげな男性。
それが私のお父さまだ。
「セージは、どうしたのっ…それに、使用人たちは…」
「おじいさまのあのインコかい?せっかく連れ帰ったのに、逃げ出したみたいだよ。あとで探さないとね」
お父さまの言葉が本当なら、セージは無事ってこと。
もしかしたら、助けを呼びに行ってくれてるかもしれない。
少しだけ、ほっとした。
「この屋敷で働いていた者たちには、全員、次の就職先を与えたよ。主人がいない家を管理させる必要はないからね」