「少しね、分かるよ。すなおにとって何か大きなことがあったわけじゃない。ちょっとヘタクソなだけだったんだよね」

「ヘタクソ?」

「うん。世の中との馴れ合い、って言ったら少し乱暴な言い方になっちゃうけど。コミニュケーションっていうかさ。自分がそこに居るだけで空気を悪くしちゃうんじゃないか、気を遣わせてしまうんじゃないか。先天的に心がそう思うようにできてしまってる。どうしてもその感情が正しいものなんだって思ってしまう。だから臆病でいることが癖になっちゃってるんだ」

「変だよね。普通はきっとそんな風に思わないでいいことなのに」

「おかしくないよ。自分が好きな食べ物を大嫌いな人がいるように、自分が心を救われる音楽や絵画の良さが全然分からない人がいるように、誰かの心も自分と同じなのが当たり前じゃないんだ」

「でも私は……努力しなきゃいけなかった。″自分はこうなんだからしょうがないじゃん″ってイジけて、勝手に遠ざかって。卑屈だった。横柄だった。黙ってても本音をエスパーしてもらえるなんて何様なのって感じ……」

「そう、だね」

藍は優しい目をして笑っている。
笑った時に目尻にできる皺の数も、口角が上がる角度も、
うっすらとできるエクボもきっと翠とは異なるんだろう。
こうやって少しずつ二人の違うところを発見していく。
藍も翠も極めて同じ遺伝子なんだろうけど当然一人ずつの人間で、おんなじ人間じゃないんだって認識していく。

「ごめん、私の話になっちゃって」

「俺が言い出したことだから。そんな風にね、翠はすなおを想ってる。今も変わらずね。だから大切な人達を守る為にも自分が置かれた環境から逃げないって決めたみたいなんだ」

「かっこいいね」

「うん、本当に。あのね、すなお」

「はい」