「あのね、翠。私だけじゃない。みんなだってそうだよ。ランチはちょっと背伸びしすぎちゃったけど」

ごめん、って翠はハニかんだ。

「みんな心から喜んでたし楽しそうだった。そんな、滅多に訪れない夢の一日が、それだけが救いになる人だっている」

「でも俺の中心はすなおだから」

胸がギュッてなる。
あの日から隠すことをやめたらしい、翠が私に向ける感情が痛いくらいに伝わってきて。

「もう降参だよ。ほんとはさ、家のことなんかなんにも要らないし、だからって藍に押し付けていいってわけじゃないんだけど……それもちゃんと分かってる。でもさ、ほんとに何も要らないからすなおだけは誰にも渡したくなかった。なんでかずっと寂しそうなすなおを笑わせる役目は俺だけのものであって欲しかった」

「そんなこと……」

「でもやっぱり藍に奪われるのなら。たった一度くらい、俺が恵まれた環境で、ほんの少し与えられた特権を乱用して、世界で一番大切だった子の為の現実を守ってみたっていいだろ」