そんなこんなで結局押し切られて、
結局クラスメイトを含めた男子三人、女子三人で間宮グループ経営の巨大レジャー施設へと、一泊二日のプチ旅行が決定した。

隣の県に二年前に誕生したその施設は瞬く間に話題を独り占め。
海沿いに建設されたショッピングモールやホテルは夏になると超満員。

海水浴場こそ間宮グループの私有地ではないけれど、
レジャー施設が誕生してからというもの、季節を問わず海辺も賑わうようになった。

プチ旅行に行こうと提案されたのは夏休みの前日だったにも関わらず、
翠は参加メンバーに一人一室ずつ、ホテルの部屋を用意してくれた。

八月一日。

翠と、あまり言葉を交わしたことすらない男女とのプチ旅行当日。

やっぱり気は重いし、施設に向かう特急列車に乗り込んだ瞬間から後悔の念が私を取り巻いている。

二人ずつ並んで座る列車の座席。
流れるように、ごく自然に私は一人で座ることとなった。

寂しくも、悲しくもない。
内心ホッとしていた。

メンバーの中では当然翠と一番仲がいいわけだけど、
翠と並んで座ろうものならそれこそこの旅行は地獄と化すだろう。

かといって、女子の誰かと座っても目的地までの一時間半、間を持たせられるような共通の話題なんて持ち合わせていないし、
男子なんてもってのほかだ。

私と座ったって楽しくもなんともないに決まっている。

隣に誰も居ないのに、
窓際に体をギュッと押し込めるようにして座った。

翠も一人で座っている。
目を閉じて俯いていた。

眠ってるのかな。
そういうポーズを取ってるだけなのかもしれない。

窓に映る自分の、貼り付けたような笑顔が可愛さのカケラもない。
なるほど。
さっきから頬からやたらと痛いわけだ。

「すなおちゃん。あげる」

前の座席に座っている女子が私のほうを振り向いてグミの袋を差し出した。
ジップ式の袋の口をパカっと開けて、
グミの粒が取り出しやすいように袋を振っている。

「あり……がと」

一粒つまんでお礼を言った。
グレープの爽やかな香りが鼻腔をくすぐった。

ニコッと笑ったその子の表情は、
頬なんか痛そうじゃない。
ナチュラルな笑顔だった。