「商談だったの?」

「カッコつけただけ。ちょっと会議に参加させてもらっただけっていうか」

「お父様と?」

「父さんと藍と……あとはほら、この前のテーマパークの偉い人達が何人か」

「あぁ……じゃあまたあそこまで行ってたの?」

「いや。今日はこっちに出てきてくれたんだよ。父さんの本社で会議っていうか」

「そっか。建設予定地のことだよね。翠達もアイディア求められてるって藍に聞いたよ」

「うん。若い子の意見が欲しいからーって」

「凄いなぁ。パークを知らない人なんてそうそういない。そんな場所に翠か藍が考えた場所ができるなんて。やっぱ私とはスケールが違うな」

「決まったよ」

「え?」

「あの場所が何になるのか」

「そうなの!?そうだったんだぁ!何になるの……って部外者が聞いてもいいのかなぁ」

「別に、女子高生が思い描くようなキラキラした夢の国みたいな場所にはならないよ。でも……すなおの為の場所だ」

「……どういう意味?」

「特別なアトラクションや施設は建設しない。なんの変哲もない、そこら中に溢れてるカフェやファストフード店、ファミレスが立ち並ぶ場所にする。一画にはちょっとした花壇と噴水、ベンチなんかも置いて休憩できる公園みたいなスペースにしようと思ってる」

「日常にありふれてる場所?」

「そう」

「どこにでも既にあるのにどうして?」

「″現実がつらい″、そう言ったすなおに夢と現実の間で泣いて欲しくなかったから」

翠が真っ直ぐ私を見つめている。
陽は完全に落ちている。

少し離れた港のほうから花火が打ち上がる音が聴こえてきた。

けれど私は翠の瞳から視線が逸せなくて
高く打ち上がっているはずの花火の色も見えなかった。

ずっと目の前に居た翠だから、
いつの間にか暗くなっていただけだから
目が慣れてても慣れてなくても、翠の姿をはっきりと認識できた。