「本当に凄いのは翠みたいな奴のことを言うんだよ」

「翠は凄いよ。ううん、翠″も″凄い。藍だって凄い。それは事実なんだよ」

「ふふ。ありがとう。俺はさ、ずっと誰よりも一番近くで翠を見てきたんだ。誰よりも翠の本質を知ってるつもりだよ」

「そうだよね」

「あいつは本当に凄い。もはやバケモノだ」

「あはは、バケモノって……」

「着眼点、センス、頭脳、バイタリティ、フラットなメンタル……言葉じゃ並べ立てられないくらいの素質を翠は持ち合わせてる。ただし、どんなに数え切れないくらいの力を持っていても、それだけじゃどうしようもないことだってあるんだけどさ」

「それだけのものを持ってしてもだめなんて……ちょー凡人の自分を考えたら目眩しちゃうよ」

藍がニコッて笑う。
小さい子どもや、まるで妹を諭すような優しい目だった。

「シンプルな言い方だけど″会社″なんて尚更だよね。会社は生き物で、誰か一人だけでは育てあげられない。日々目まぐるしく変わっていくものをたった一人が奮闘しても制御不可能だからね」

「翠には……」

「そう。たったの十六歳。高校一年生。社会なんて知るはずもない。まだ知らなくったっていいからね。なのに翠はやってのけるんだ。将来、それこそ頂点に立つのなら絶対的に必要な人望、カリスマ性。先天性のものをね、あいつは持ってる。翠の中に人よりも不足しているものを探せと言われたら……俺には見つけ出せないかもしれない」

「藍は、似てるんじゃないの?」

「似せようとしてきたんだよ」

「どうして?苦しいんでしょ?」

「翠のヒーローで居られないことのほうがずっと苦しいし、怖いから」