頷いた藍は街を見下ろして、さっきまでよりは平気そうな表情をしている。

「何がそこまで藍を追い込んでしまったの。過度な期待?」

「ごめんね、すなお。きみが言ってくれたことは本当に嬉しかった。でも俺は、凄くないから」

「でも……」

「うん。分かるよ、大丈夫。周りが俺に向けて言ってくれていることに偽りはないんだって。卑屈にもなってない。でもね、やっぱりどうしても幻想と現実との差異に心臓が重くなる」

「幻想」

ゴンドラがゆっくりと進んでいく。

前方に再び現れたカップルはキスをしていた。

藍は元の場所に戻っていて背中を向けているから、藍が見ていなくて良かったと思った。

私は私で、自分の背中越しのカップルがどうしているかは分からない。

振り向く勇気はない。