「すなお。それ、ネイル?」

「どれ?」

「これだよ」って言いながら藍が私の左の小指をつまんだ。死んだ。

「ちっ……ちがうよ」

「へぇ。なんにも塗ってない?自爪なんだ?」

「そう……」

「すなおは爪がきれいだね。デフォで桜色」

「そんなの……こんな暗いところじゃ分かんないでしょ」

「俺はすなおよりもずっと前からここに居たからね。目はもう慣れてるよ」

「ん……ありがと」

「好きだな。すなおの色」

すなおの、爪の色が、好きなだけだっ!

大丈夫。頭ではちゃんと理解できている。

「ありがと」

「ん。じゃあホテル戻ろっか。部屋まで送ってくよ」

「いやいやいや!結構です!大丈夫!」

「だーめ。なんかあったら翠に殺されるから」

「いやいや……」

「いーから!」

何がそんなに楽しいのか、ニコニコと笑いながら藍は歩き出した。
なすがまま、藍の背中を追うことしかできなかった。

自分に何が巻き起こっているのか、一つも理解できないままベッドに潜り込んだけれどその日、いつまでもいつまでも眠ることなんてできずに朝を迎えた。

脳内に棲みついてしまった藍は、一晩経っても色褪せてはくれなかった。