ディナーを提供してくれたホテル併設のレストランを出て、ホテルのロビーで私達はおやすみを言い合った。

翠もさすがに眠たそうだったから特に引き留めることもしないで、私も部屋に戻った。

部屋を出る時に一応閉めていたカーテンを開ける。
窓に自分の顔が反射する。
ここに来るまでに列車の窓で見た顔よりも″ツラそう″じゃなかった。

窓を開けたら目の前のビーチから海の汐の香りと、波の音がよく聴こえてくる。

あの場所に、私も″友達″と居たんだという事実が未だに信じられない。

楽しかった。

純粋にそう思えることが嬉しかった。

ふと、ボーッと眺めていた波打ち際に人影が見えるような気がした。

ビーチは真っ暗だ。
海も、ただの真っ黒の大きい口に見える。

ホテルや近隣の建物からもまだまばらに灯りはあるけれど、
ビーチにまでは届かない。

でも確かに波打ち際で人影が揺れている気がする。

なんでだろう。

本来ならこんな夜にそんな物、恐ろしいはずなのに頭よりも先に体が動いてしまった。