おんなじ顔。
おんなじ声。
よく似てる仕草。

翠を例える言葉がそのまま藍くんにはきっと当てはまる。

なのに、

なんでだろう。

遠くから見ても私はきっと藍くんを藍くんだと認識できる。

息が止まってしまいそうだった。

「すなお?」

「……えっ、あー……ごめん。のぼせちゃったかも」

「えぇ?暑い?」

パタパタと手のひらを動かして私を煽ぐ翠。

無風、なわけないんだけど、
細胞までおかしくなっちゃったかも。
なんにも感じない。

「うん、のぼせた……かな」

「大丈夫?ここ暑い?空調の設定、変えてもらおうか?快適じゃないロビーなんて嫌だよね」

藍くんが受付のほうに顔を向ける。
神様が丹精込めて描いたような、ムダの無いフェイスライン。

「いえ平気です、すみませんっ、翠、早く行こっ」

「藍、父さんは?」

「商談中」

「ふーん。あ、藍はさ、夏休み利用して父さんの仕事の勉強してんだよ。で、今日はここら一帯の施設の視察なんだってさ。夏休みなのに、藍はさすがだろ」

「お前が押し付けてんだろ」

嫌味のない笑顔で藍くんが翠を小突いた。

「ね、翠、早く行かなきゃみんなが待ってる」

「ん。じゃー藍、頑張ってな。時間あったらおいでよ」

「はいはい。楽しんで、ね?すなおちゃん」

小さく会釈だけをして、翠の腕を引いて藍くんから離れた。
ロビーを出たら分厚すぎる湿度と太陽の陽射しに当てられたけれど、
藍くんの目の前に居る時よりも呼吸がラクだった。