「あ、あの、どうして名前呼び、なの……?」
恐る恐る尋ねる。
「ひよりちゃんと仲良くなりたいから。」
「わたしと、仲良く……?」
「そう。」
一ノ瀬くんはニッコリと微笑む。
「名前呼びって親しい感じがしない?」
たしかに……。
名前呼びだと気安い感じがする。
わたしは同意するようにコクコクと頷いた。
「だから、ひよりちゃん呼び。それにひよりちゃんって名前可愛いし。」
「か、可愛い!?」
わたし自身のことを言われたわけじゃない。
でも、言われ慣れていない、可愛いという言葉に過剰に反応してしまう。
「うん。可愛い。」
一ノ瀬くんが不意に真剣な表情になる。
なんて言っていいか分からずに視線を逸らす。
そんなわたしの反応を見て、一ノ瀬くんはくすくすと笑った。
「やっぱ、可愛いね。ひよりちゃん。」
いつもの爽やかな笑顔ではなく、少し甘さを含んだ表情に、心臓がドクドクと脈打つ。
そんなこと言われるとわたしが可愛いと勘違いしちゃいそう。
一ノ瀬くんが可愛いって言ったのは名前のこと。
それに、わたしが可愛いわけが無い。
「もう!あんまり、からかわないで!」
一ノ瀬くんが何か言おうと口を開く。
けれど、これ以上なにか言われたら心臓がもたないと、その言葉を遮った。
「勉強しよ!早くしないと時間無くなっちゃう。」
「はーい。」
そう言うと、一ノ瀬くんは少し残念そうな顔を浮かべていた。