すっかり短くなった挨拶で中に入ると、すぐに昊優(こう)が迎えてくれた。
「え、あ、総長・・・?」
さっき来たばかりだからか、昊優は驚きで目を見開いている。
「これ知らせね」
「あっ・・・ありがとう、ございます・・・!・・・こっちは?」
「ん-?幹部交換トーナメント~」
タッタラ~とおどけて見せると、昊優は優しく微笑んだ。
「こういうトコがいいんっすよね」
こういうトコ・・・?
突然トーナメントを開催しま~す!って言うのが好ましいのか?
「全員参加ですね・・・了解したっす。この知らせは一番広い部屋に貼っておくっす。トーナメントも参加するように言っておくんで」
「おーありがとう。じゃあ私はココで・・・」
ファイルをあどけない笑顔で受け取った昊優に笑みを浮かべ、手を振って教室を出ようとすると。
「あっ・・・あの、ちょっとお茶の時間にしないっすか?」
「え?お茶の時間?」
「はい。体育委員室と生徒会室を行ったり来たりしてるみたいなので・・・よかったら。珈琲(コーヒー)淹れるっすよ」
「じゃあお言葉に甘えて」
昊優の緊張したような誘いをOKし、私は個室の椅子に座った。
「ちょっとお待ちくださいっす」
ニッコリして給湯室にむかった昊優。
しばらくしてカフェのような銀のトレーをもった昊優が帰ってきた。
トレーにはティーカップとマグカップ。
それと琥珀色の液体が入ったティーポットと真っ黒な液体が入ったコーヒーポット。
そして黒い物体が2皿だ。
「こちら、ブラック珈琲になります。おかわりもありますのでこちらのコーヒーポットからお注ぎください」
店員のような態度で説明を始める昊優にくすっと笑うと、昊優は嬉しそうに笑みを返してくれる。
「笑ってくださりありがとうございます、お客様」
「あはは」
店員さんを続けるかと思ったが、昊優は口調を戻した。
「こっちはチョコシフォンケーキっす。甘くないんで総長もいけると思うっすよ」
私の向かいに座り、昊優は優雅に紅茶を(すす)った。
「じゃあいただきます」
私も珈琲を啜ると、昊優は「おかわりもありますからね」と言う。
その言葉からは『そんな早くは帰らないでくださいね?帰りませんよね?』という圧を感じた。
昊優くん・・・目上の人を威圧するのはどうかと思うよ。
「ん、シフォンケーキ美味しいね。どこのお店のやつ?」
シフォンケーキを一口食べ、昊優に訊くと予想外の返事が返ってきた。
「それは・・・俺が作ったっす。美味しかったっすか?」
「うん、お店のものじゃないんだね・・・すごいレベルが高いね。また作ってよ」
「・・・‼もちろんっす!ってかこっちから作らせてくださいってお願いしたいっす!」
昊優がキラキラした目で見つめてきて、私はそのキラキラ度に目を逸らしそうになる。
「いやー・・・誘ってくれてありがとね?昊優」
「いえいえっす!総長とお茶できるなんて夢にも思って無かったっすよ!人生でトップクラスに幸せな時間だったっす!」
「・・・言い過ぎだよ・・・」
相変わらず忠誠心の高い子だ。
「トーナメント、期待してるよ?幹部になれるといいね・・・昊優と一緒に幹部として活動できるの、楽しみにしてるから」
昊優の耳元で静かに囁くと。
「はいっす!どーせなら副総長になってやるっす!」
「あれ、総長じゃないの?」
「当たり前っす!喧嘩に遠慮は必要ないってわかってんすけど・・・やっぱりトップは総長であってほしいっす!!」
・・・純粋な目で見つめるのはやめてくれ・・・。
私はそんないい人じゃないんだよぉ・・・。
フツーに、遠慮なく人を半殺しにしてるし。
あー・・・この世に半殺しっていう素晴らしい(●●●●●)文化があってよかった。
「総長・・・絶対今怖いコト考えてるっすよね・・・」
「昊優」
「はいっす!」
名前を呼ぶと、昊優は元気よく返事をしてくれた。
「・・・頑張って、ね?」
「はっ・・・はいっす!頑張っていろんな意味で総長の横に立てる人間になって見せるっす!!」
うんうん、いい返事だ。
色んな意味って言うのはちょっとわかんないけど。
1つは実力でしょ?
もう1つは立場でしょ?
あとは・・・?
私が理解しなくてもいいコト・・・なのか。
深入りはしないよ、詮索とか女子みたいじゃん、私も女子だけど。
「昊優は珈琲淹れるのも上手いねぇ」
オールマイティ―とはこのことか。
「昊優って頭良かったよね。たしか喧嘩も頭脳派だったけ?」
「あっ・・・そうっすね。口喧嘩とかそういうのじゃないんすけど、作戦を考えるのとかは好きっす!」
「へぇぇぇ・・・じゃあ幹部になったら作戦は頼りにするわ」
「期待にこたえられるように頑張るっす!」
昊優は元気よく頷き、年相応の笑みを見せる。
そうそう、中学生なんかまだね?
鼻水垂らしてウェーイ!とかは無くてもゲームでうぉりゃー!とかやっといていい年齢なんだよ?
中学生のゲーマー=発狂マン的な。
「総長って不思議っすよね・・・一緒にいて落ち着くってゆーか・・・安心感がすごいあるってゆーか・・・」
「あはは、それはどーも。下の子から褒められるのも悪くないね」
まっすぐに褒めてくれる昊優はきっといい子だ。
彼女とかいたら思ったこと全部言って喜ばれそう。
『可愛い』とか遠慮なく言ってそうだもんね。
「・・・あ。そろそろタイムアウトっすね」
「タイムアウト?」
昊優がチラリと腕時計を見てため息をつく。
「残念っす・・・もうちょっと総長といたかったんすけどねー・・・」
珍しく私を無視して呟く昊優の額をデコピンすると。
「・・・っ?!そ、総長!すんませんっす!えっと・・・」
「タイムアウトってなに?」
慌てたように昊優が立ち上がった。
反射神経良すぎ・・・。
・・・ん?なんか怖がられてるってコト?
「タイムアウトってゆーのは・・・生徒が寮に戻らないといけない時間っす。生徒会寮以外はランダムの時間で点呼があるんでこっそり抜け出したりできなくて・・・」
「そっかそっか、ってか私、寮の説明受けてないわ。戻った方がいいよね?」
「そう・・・っすね。またお菓子作るんで食べに来てくださいっす!」
「はいはい、絶対来るから自信作よろしくねー」
ふぅ、なんとか珈琲全部飲まなくなってよかったー・・・。
「じゃあ明日からちゃんと授業受けるコト。サボってる子がいたら知らせ見せてあげて」
脅迫状、ね?と言うと、昊優は安心したような笑顔でうなずいてくれた。
そして遠慮がちに小さく手を振る。
「ふふ。大きく振ってもいいんだよ?じゃあね」
さーて・・・私も戻らなきゃな・・・。