「失礼しま~す・・・」
通る声で言いながらドアを開け、奥に進む。
あ・・・狭いと思ったけど普通に広かった。
壁と同じ色のカーテンで奥のドアが隠されていたのか。
カーテンをまくり、現れたドアを押す。
「・・・っ、誰だ・・・!ってっ?!」
音に気づいた1人の子がこっちを睨み、私だと気づいて頭を下げた。
「お、お疲れ様っす、総長!シュラナに来られたんすか・・・!副総長たちが言ってたのはホントだったんすね・・・!!」
「うん、今日ちょうどね。警戒心が強いのはいいことだね」
フワフワをその子の頭を撫で、私は部屋に入った。
「・・・そ、総長・・・?!来てくれたんっすか!みんな元気にしてるっすよ!!」
突然の訪問に不機嫌さはなく、みんな驚きながらも笑顔で迎えてくれる。
(すのう)はいる?」
雪とは次期幹部候補の男の子で、甘える大型犬系美男子だけど喧嘩の実力は確か。
「そーちょー!来たの来たの!俺のため?俺のためっ⁈」
「あーあー、相変わらず元気だねぇ雪。この半年どうだった?」
私はこの半年、チュリのみんなに会っていなかった。
下の子や雪はもちろん、幹部のみんなにも。
安心させるために一週間に一回くらいは空に電話してたんだけど。
「ん-っとね、この半年ね?聞いてくれる?!」
「当たり前。コッチから訊いたんだしね」
あぁ、雪のお尻からブンブン振られる尻尾が見える・・・いや。
あれは振ってるんじゃないよね、当たったら壁まで吹っ飛んで骨折する可能性あるよね、威力的に。
「とは言ってもどうだったって答えれるのは1つなんだけど!」
雪がニコニコしながらそう言ったとたん、他のメンバーは『はぁ・・・』、とため息をついてみんな揃って額を片手で押さえた。
「んとね、あのねあのね、そーちょーがいなくてね、」
雪はもっと満面の笑みになり、大きな声で言った。
まるで『この答えに自信があります!』とでも言うように胸を張ってハッキリと。
「生きてる意味なかった!!!」
・・・うん、なんとなく想像はできた。
でもね?でもね?!
もっと違う回答方法があるでしょっ?!
『そーちょーの存在の大きさを改めて知りました』とかさ?!
私の不満げな顔を見て、雪は首をかしげた。
「この回答が欲しいんじゃないかったの、そーちょー?」
・・・はぁ。
「いや・・・嬉しいよ、雪。喧嘩の腕はどうなった?」
「それね、もう幹部は行ってもいいと思うんだけど!そろそろ苺にタイマン申し込もうと思って!」
「・・・なるほど」
苺はほんわかしてるから喧嘩なんて出来ないと思ってるね?
ふっふっふ・・・甘いね。
「雪、今の幹部で一番弱いのはねぇ・・・まぁ、弱いって言ったら駄目だけど」
でも幹部の弱いはフツーに、一般的にはめっちゃ強いだよ?
「・・・桃、だよ」
桃はとても強い。
でもその喧嘩は、私が関係してないと勝てないんだ。
『私が勝ちを望んでいる』『勝ったら私に褒めて貰える』『負けたら私が危ない』など・・・。
私に関係する何かがないと、強くなれない。
それこそ雪に負けてしまうほどに。
「タイマンを申し込むなら桃だね。幹部交換って言うのは伏せといて。それを知ったら私と離れると思って本気出しちゃうからね」
「でも伏せていいの?あとから言うなんて反則じゃない?」
「正義感が強いのはいいことだね。でも大丈夫。空と話し合って伏せても勝てばいいってことになってるから」
「じゃあ喧嘩しよ!って感じで相手してもらって勝てばいいの?」
「・・・そうだね」
どうしよう、ホントに幹部交換が起こりそうだ。
「戻りましたー・・・ってお嬢?」
ドアの向こうから爽やかな声がして、声の主は私がいる部屋に入ってきた。
「・・・お」
私のコトを『お嬢』と呼ぶ、雪ともう1人の幹部候補。
(らいと)だ。
「やっほー光。元気にしてたー?」
「お嬢!やっと来ましたね。俺は元気でしたけど生きた意味ってのは失った気がしました」
「あーそーゆー回答望んで無いんで結構です」
雪と同じことを言った光に即答し、私は彼に向きなおる。
「光にお願いしたいコトがあるんだけど」
「なんですか?問題とかありましたっけ」
不思議そうに首をかしげる光に私は笑顔でうなずいた。
「校外アジトの彗星(すいせい)に知らんグループが入ってきてるみたいでさ」
ちなみに校外のアジトは惑星の名前になっている。
彗星、金星(きんせい)火星(かせい)木星(もくせい)土星(どせい)天王星(てんのうせい)海王星(かいおうせい)
「あー、なんか連絡ありましたっけ?」
興味なさげに斜め上を見た光に笑いかけた。
「グループの詳しいこと突き止めて潰してくれる?・・・幹部候補さん?」
「・・・っ!」
この『お願い』を受けなければ幹部候補から外される。
そう感じ取ったらしい光は仕方なそうに頷いた。
「よかったね、久しぶりに再会した総長からの直接命令」
光の耳元でそう囁くと、光の顔がパッと輝く。
「任せてくださいよ、いい報告しますんで」
嬉しそうに笑顔で言って、光は部屋を出て行った。
あーチョロいな・・・いいように使われてなければいいんだけど・・・。
っていいように使ってる張本人が何言ってんだって話だよね。
「それで・・・骨折者は?」
私がココ(校内アジト)に来た理由。
骨折者の確認だ。
「幹部から聞いたから隠す必要ないよ」
「・・・そうっすか。骨折した奴らは奥の仮眠室で大人しくしてるっす」
私に隠し事は通じないと悟ったのか、質問された子は仮眠室のドアを指差した。