──そして話は冒頭に戻る。
朝、両親は大泣きで私を留めてきた。
兄は・・・まぁ、体調崩した後に。
・・・病んだ。
なんかマジで、シスコンだからヤンデレっぽくなった。
3人の制止に笑みで対応し、私は家を出てきた。
これからは寮生活。
長期休暇に一度、一週間だけ帰ってくることを条件に両親は手続きをしてくれた。
「・・・あ、貴方が・・・新入生、ですか・・・?」
校門をくぐって少し行ったところで男の人に声を掛けられる。
「はい、黒姫月(くろきむうん)と申します」
名乗って頭を下げると、男の人は私のコトをじーっと見てきた。
見定めている・・・というよりはただ見ているだけ、のような。
「・・・あの?」
「あ、ああっ、すみません!ワタシ、シュラナ学園中等部教頭です」
「教頭先生でしたか。これからお世話になります」
「いっいえ・・・っ!あの、ではこちらへ・・・説明は学園長ではなく、生徒会がするそうですので・・・」
教頭先生は私に向かって申し訳なさそうに言う。
「では生徒会室に行きましょうか」
「はっはい、そうですね・・・!では黒姫さん、行きましょう・・・」
教頭先生、緊張してる・・・?
「こちらが生徒会室です・・・!中にお入りください。教師は室内に入ることができませんので・・・」
「ありがとうございます。ではお仕事頑張ってくださいねっ」
愛想笑いを浮かべると、教頭先生は安心したように頭を下げて去っていった。
「・・・失礼します」
扉を開けると、また扉が。
二重扉か・・・しっかりしてる。
2つ目の扉を開け、私は頭を下げた。
「新入生の黒姫月です。今日は生徒会の皆さんが説明をしてくださるそうで・・・」
「待ってたよ月!」
頭を上げたとたん、なにかに視界が遮られた。
「・・・雨?」
その声は、ずっと前から聴きなれていた声だった。
雨に解放され、生徒会室を見渡すと。
「・・・なんだ、生徒会って・・・そっか」
なるほど・・・と私は1人で納得した。
「久しぶりだな、月」
声を掛けてきたのは眼鏡をかけている長身の人。
胸元には『会長』のバッジがある。
「・・・久しぶり、空」
黒影空(くろかげすかい)だ。
「月にまた逢えた!これから一緒だねっ」
可愛らしく言う小柄な彼のバッジは『副会長』。
黒琥雨(くろこれいん)
「月・・・好き・・・逢えた・・・」
儚げな雰囲気を漂わせる彼のバッジは『書記』。
夜黒桃(やぐろぴいち)
そして。
「月、元気にしてた?」
穏やかな癒しオーラを醸し出す彼のバッジは『会計』
黒羽苺(くろうべりい)だ。
「推薦してくれたんだね?ありがとう」
みんなと再会できてうれしいよ、と微笑むと。
「はー・・・作り笑いでも心臓に悪いね・・・」
と困ったように(べりい)が言う。
「作り笑いって・・・ひどいなぁ・・・」
わざとらしく拗ねたようにそっぽを向くと、(ぴいち)に抱きしめられた。
「月・・・可愛い・・・俺のもの、なる・・・?」
ヲイ、『もの』とかやめろ。
私は人間だよ、・・・多分、そう、人間。
「みんなこそ元気だった?」
首をかしげながらそう訊くと、みんなはある意味予想通りの答えを出してくれた。
「元気元気~」
(れいん)なんて元気すぎて困ってたんだ」
「・・・俺は月がいない人生なんて意味ない・・・」
「まぁ、不本意だけど桃に同意だね」
・・・ホラこの通り。
「下の子たちは?」
「あぁ、元気だぞ。暴力事件もあまり起きてないし、月の入学を知ったら飛び上がってたぞ」
「・・・その時も大丈夫だった?」
「・・・まぁ・・・少し骨折者が出た、くらいか・・・」
「・・・何人?」
骨折した子が少しなら・・・1人か2人、だろうか。
「・・・」
具体的な人数を求めると、空は押し黙ってしまった。
なるほど・・・少しじゃないんだよね?
「雨、教えて?」
「いやぁ・・・その、まぁ・・・ね?もうすぐ完治しそうだから問題ないってゆーか・・・」
雨に訊いても返ってくるのは歯切れの悪い返事。
「桃は教えてくれるよね?」
「・・・月が知るコト、ない・・・こっちの問題・・・」
「桃ぃ・・・」
辞めようよ?総長を輪から追い出すのは。
「苺、骨折したのは何人?総長に報告」
「・・・報告するまでもないよ?」
苺まで・・・ひどいじゃないか。