「はいココ~!俺のお気に入りのトコ~!」
「わ・・・、え、広くない?なんで家具あるのさ」
雪に連れられて入った教室だが、寮みたいだった。
ソファにテレビ、ベットにキッチンまで。
ちょ、もしかして雪、ココに住んでる・・・?
「ココねぇ、ちょーっとお願いしたら(脅したら)作ってもらえた~」
はぁ・・・なんてこった。
学園内で雪の評価ダダ下がりじゃない?
「成績ダイジョーブ?」
「成績常にトップ、出席日数確保、今日登校日では皆勤しょ~!」
はいはい、皆勤賞ね。
「はいっ食べよ!・・・は、なにお前入ってきてんの」
「ひど。お嬢がお前と俺でって言ったからだよ。いくらお前の部屋でも大好きなそーちょーの命令に背くの?」
雪に訊かれ、光がそれはいい笑顔で答える。
ってか『総長とご飯食べたい』に続いて雪のマネゴトで『そーちょー』って・・・。
うぅ、光に呼び方変えられると違和感しかない・・・。
まぁ、お嬢って呼ばれてる時点でお嬢様なんだなー・・・とはならんよね?
どー考えても極道の姫だよね?
ヤクザの家系に生まれた凶暴な娘だよね?
・・・で、お嬢って呼んでるヤツはヤクザのメンバーだよね。
ちょっと間違ってないけど。
「あ、お嬢」
雪が奥から持ってきてくれたふかふかな椅子に座り、机にランチボックスを広げたところで光に話しかけられた。
「ん~?なに?おかず欲しーの?いいよ?」
「え、いや・・・ん?お嬢が作ったんですか」
「そーそー。早起き得意だからさ」
「いります!ください!」
「いいよ~。なに欲しー?」
私が作ったと知って小動物に襲い掛かる獣のごとく身を乗り出した光。
「じゃあっ・・・これなんですか」
「これね、アスパラガスと人参の肉巻き~。焼き肉のタレで焼いてあるから美味しーよ?」
「これお願いします」
焼き肉が大好き・・・というか焼き肉のタレが大好きな光は、予想通り肉巻きを選んだ。
だってたまにお米に焼き肉のタレかけたお米をお弁当にしてアジトに来たことあったもん。
「・・・っと話がズレましたね。彗星(すいせい)の問題ですが」
あぁ、アジトに侵入してきたねぇ・・・。
「どーなった?」
「結果的に言うと潰しました。もともと彗星にいたヤツらがある程度相手を特定してたんで。昨日の夜突撃して潰しておきました」
自信満々に言った光に、私は笑みを浮かべた。
「単独でありがと」
そう言って私は光にお願いしたとき、『任せてくださいよ、いい報告しますんで』と言っていたのを思い出す。
有言実行の人ってかっこいいよね、信頼できて。
まぁ、世の中そんなに甘くないけどさ。
「そーちょー、こいつのコトなんてほっていて。俺に構ってよ」
不満げに口を尖らせ、腕を絡ませてくる雪。
「はいはい、あ、幹部交換トーナメント、どう?」
「ありがと!俺が桃にタイマン申し込もうとしてたからっ?そうだよね?!」
「・・・そうだね」
嬉しそうな彼が目の前にいる手前、『そのコト忘れてたわ!』なんて、てへへでも言えない。
「俺、絶対幹部行きますね」
光も自信満々に胸を張り、宣言してきた。
「ん、頑張ってね」
私は薄情だから幹部がどうなろうとどーでもいい。
もちろん仲が良い空たちがいなくなるのは寂しい?とは感じるけど。
だからって力を使って空たちを幹部に戻そうとは思えない。
私は今回も実力的に総長決定と言っても間違いではないし。
「そーちょーのすぐ下・・・ん-隣で過ごす時間が増えるのかぁ・・・むふふ」
雪はなにを想像しているのか、雪らしくない笑みを零す。
「俺も楽しみですね。お嬢と一緒に入れるコトほどの幸せなんてこの世に存在しないですよね。・・・いや、お嬢が俺のモノになってくれればもっと俺は幸せになれるんですが」
私が悪いのか、恨みがましく見つめてくる光に首を傾げた。
何故私を見つめる・・・。
アレか?私が光の腕の中に入らないからなのか?
いやぁぁぁ・・・ねぇ?
()が作った檻に閉じ込められる()って可哀想じゃん?
()()だったら()のほうが強いじゃんね?
しかも私は無自覚(定番)なんて可愛いもん持ち合わせてないからさ。
人からの好意には敏感なほうなわけですよ。
「そーちょーがお前なんかに似合うわけねーだろ。そーちょーに似合うのはこの世に俺だけって決まってんだよファッキュ」
「さり気な~く悪口言うのやめてくんない?」
「死ねが悪口なのか?お前脳みそ筋肉でできてんのか?脳みそきんに君?」
「脳筋みたいに言うなよ。俺の脳はいたって清潔な水だ。天然水より透き通ったな」
「たとえが馬鹿なんだよ、脳筋」
雪と光が事実に似ている喧嘩をはじめ、私はお弁当のおかずを口に詰め込んで教室を出た。
幸い、2人とも私が教室を出て行ったことには気づかず。
なんかムサくね?となって月を探したのであった。