「・・・そろそろ帰る時間?」
一般生徒ならもう絶対寮に戻っていなければいけない時間だ。
昊優が言っていたみたいに。
桃の言葉に作業をしていた私含め3人は顔を上げて時計を見る。
「もうこんな時間か・・・」
空が疲れたようなため息をついて、苺は労うように背中を撫でてあげていた。
「じゃあ帰ろっか?・・・私、寮のコトなにも知らないんだけど」
「・・・それなら大丈夫。寮コッチ」
桃は私の手を引いて、出口とは反対の奥の部屋に入っていく。
「明日から月は授業受けるもんね~。早く寝なきゃ」
雨もニコニコしながら私と桃について行く。
「どこ行くの?帰らないの?」
「寮に帰るよ~」
そうだな、そうだね、と空と苺も奥に向かって歩き出した。
「・・・ココ」
「・・・ココ?」
みんなが入ったのは一番奥の部屋。
生徒会室のドアを同じくらいの大きさがある絵画が壁に掛けてある。
「なんの絵・・・」
だろう、と絵画を見た時だ。
・・・恐ろしいものが見えたのは。
                                                                 
女性が1人と、男性が4人いる。
                                                                  
女性は真ん中に、豪華な椅子に腰かけている。
                                                                 
まわりの男性4人は女性になにかを献上するように膝をついている。
                                                                   
1人は血がべっとりついたナイフを。
                                                                 
1人は血がべっとりついた金属バットを。
                                                                  
1人は血がべっとりついた鉄パイプを。
                                                                                            
残りの1人は・・・。
                                                                                  
紫っぽい光を放電(?)するスタンガンを。
                                                                
それに女性は嬉しそうに微笑んで腕をのばしていた。
                                                                   
・・・なんだ、これは。
昔の絵画だったらスタンガンなんて存在しないはず。
「この絵ね、僕たちが画家にお願いして描いてもらった最高傑作なんだよ。現実味があるでしょう?」
やめようぜ苺。
笑みはそーゆーふうに使うモノじゃないんだ。
マトモなコト言ってるかのように冷徹な笑みを浮かべてフフフ・・・ってやめよ?
「真ん中の女の人が月ね。で、ナイフが空で、バットが雨で、パイプが桃で、スタンガンが僕なんだ」
いーちごーぉ。
なにを思ったら嬉しそうな笑みが浮かべられるんだよ?
「・・・さて、本題?だが・・・」
苺の怖さに怖じ気づきながら、空は絵画をずらす。
すると、ウィーン・・・という効果音は無いけど、絵画が横に退いた。
「こ、れは・・・」
現れたのは、立派なドア。
「これが寮につながるドアだよ。教師は生徒会室入室禁止だから、点呼もできないんだ」
「なるほど・・・」
空がドアを開けて中に入ると。
「すごい・・・広いね。もしかして・・・アレ?外から見たときに見えたでっぱりの部分?」
「お、セーカイ。存在は知られてるけど入ったことがある生徒は・・・そうだね、歴代生徒会役員かな?」
「私入っていいの?」
「会長秘書になっただろ?それに、推薦した時点で月の部屋は用意してある」
空が平然と言い、1つの部屋を指差した。
「なるほど・・・」
なんて計画的なコトなんだ。
まぁ、悪いことではないと思うけどさ。
「左から苺、桃、月、雨、俺の順の部屋だ」
空の説明にフムフムと頷きながら首をかしげる。
「えっと・・・鍵?かな?」
「カードキーだよ。月が良かったらだけど・・・」
苺は私の顔を窺うように言う。
「なに?どーしたの」
「みんな、お互いのカードキーは持ってるんだ。緊急事態とか、ね。だから月が良かったらみんなカードキー持っていいかな?みんなの分のカードキーも渡すから」
「ん、いーよー・・・みんなが私の下着を持ってくとは思えないからね」
冗談めかして答えると、みんな大きく頷いた。
「じゃあ、これ全員分のカードキー。名前通りの色だよ」
雨にカードキーを渡され、ふーん、とカードを眺めた。
私は暗い黄色と灰色のグラデーション。
空は空色で、青と水色のグラデーション。
雨は水色と白のグラデーション。
桃は薄いピンクから濃いピンクのグラデーション。
苺は薄い赤から濃い赤のグラデーションだ。
さすが・・・名前で色を分けられると便利かも。
「さぁ、ようこそシュラナ学園へ」
空の声で私はカードキーを差し、部屋に入った。