「あのさ、昨日本当に速水とキス、したのか…?」



グッと言葉を呑み込んでしまいそうになるのを必死に堪えながら、ニコッと笑顔を作る。



「…うん。したよ。本当ならフリの予定だったんだけど、速水くんとなら別にいいかなって」


「なんで…」


「話はそれだけ?私、撮影があるしもう行くね」


「待てよ!俺は…」


「梶くんには夏希ちゃんがいるでしょ?言ったじゃん、私もいい感じの人がいるって。お互い、それぞれ大切な人がいるんだよ。私たちが出会ったのは運命なんかじゃなかった。ただの偶然。たった一ヶ月ちょっとだよ。すぐに忘れるよ」



線香花火の火がぽとりと寂しく落ちた音がした。


梶くんはもう、何も言おうとしなかった。



梶くんだけが私を初めからちゃんと見てくれていたのに、私は芸能人と一般人として線引きをして突き放してしまった。