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マルセルの側近はママとパパが座っている近くまで来ると足を止めた。

ふたりが座るテーブルの上には中身が半分ほど入ったグラスが置かれていて、ふたりの視線はステージへ向いている。
ママは大道芸を見ることで少し緊張が溶けてきているようで、笑顔が耐えない。

私以外の前ではいつもひりついた表情を浮かべていたママを思い出すと、とても信じられない光景だった。
側近はステージに夢中になっているふたりの元へジリジリと近づいていく。

そしてズボンのポケットから小瓶を取り出した。
ビンの中には透明な液体が入っていて、それを見たプルーが「わんっ」と一声吠えた。

ママとパパが振り向き、マルセルの側近がすぐに小瓶をポケットへ戻して後ずさりをした。
「あらエメラルド。とっても楽しいからこっちへいらっしゃい」

まさか命を狙われているとは思ってもいないのだろう、ママが手招きをしてくる。
私は側近がそばを離れるのを確認してから、ママに駆け寄ったのだった。