後ろで身じろぐ気配がして、目線だけやると、吉永がどさくさに紛れて逃げ出そうとしていた。
 もっとも、肩と足に一発ずつ入れているし、手足は拘束されているので、身じろぐだけだが。


「わたし、逃げろって言ったか?」

「な、なんでだよ! 質問に答えたら逃げていいって言ったじゃねぇか‼」

「お前馬鹿か? こちらからの質問なんて、まだ終わってないし、これからも終わることはないだろうな」

 つまり、お前は一生家に帰れない――。吉永は霜歌の言外の意味を悟ったらしく、自暴自棄になりながら己の『主』について語りだした。
 残り8人だった相手は主に柊都と柊葭の活躍により全滅していた。


「お、お、おお、お前なんて主がいつか殺しに行くんだからな……!」

「へえ、お前の雇い主はそんなに強いのか」

「あ、当たり前だろ! (この)世界でも有名なぐらいな!」

「そいつは日本人か? それとも海外のマフィアか?」

「日本人だよ! 活躍拠点も日本だ」

「――そんなやつ、わたしは知らないが?」

「知ってるも何もあるか! 主はな、お前のちちお――」

 ――や、と続きかけたとき、突然声がした。

「――ちょっと、話し過ぎですよ、吉永司さん。これ以上は秘密ですって」