そこには三、四十代と思われる男性が眠っており、その手足には縄が巻き付けられていた。
霜歌は無言で袖口から消音機を取り付けた拳銃を取り出すと、容赦なく男性の肩口を撃った。
寸分の狂いもなく的中した弾丸の痛みに男性が飛び起き、何か呻いたが、口元にある猿ぐつわのせいで、声に出すことができない。
濤歌が男性に歩み寄り、猿ぐつわを外す。途端「ぐわぁぁぁ!」という叫び声を発したので霜歌は顔をしかめて男性の足に発砲する。
「うるさいよぉ、キミ。今度いらない声出したら、ウチの総代さまがキレちゃうからさ、静かにしようね」
顔を青ざめて壊れた機械のように何度も首を縦に振ったのを確認した濤歌はでも、と言葉を続けた。
「キミにはいくつか聞きたいことがあるんだ。その質問に答えてくれたら、楽になれるよ。……答えてくれなかったらわかんないけど」
「わ、分かった。答えるから、答えるから逃がしてくれ。い、家で娘が帰りを待っているんだ、早く、か、帰らなくては」
「そか。キミの家どこ? 尋問が終わったら送ってあげるから」
男性は不審げにしながらも都内の住所を口頭で伝えた。今頃、その住所のもとに情報部隊がドローンでも飛ばしているだろう。
「ん-、ケガさせちゃったもんねぇ。病院にも行かなきゃだし、早く終わらせちゃおっか」
濤歌がちらりとこちらを見たので、霜歌はため息を吐き、感情が読み取れないほど冷たく聞き取りを始めた。
「お前の名はなんだ?」
男性はしばらく黙っていたが、彼女の手元の拳銃を見ると「ひぃっ」と言って震える声で答えた。
「よ、吉永、吉永司だ」