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 いつ桜田から呼び出しがあってもいいように準備していたが、1週間経っても2週間経っても電話は鳴らなかった。資金繰りの目途が立ちそうなのだから本格的な計画案はすぐに出来上がると思っていたが、予想外に時間がかかっているようだった。
 その理由が人選に関することだとわかったのは、更に1週間後のことだった。
「校長や教頭を誰にすればいいのか。それと、スポーツ専門中学校に相応しい教師とはどんな人なのか、その教師がどこにいるのか、どうやって集めたらよいのか……」
 教育文化省を訪ねてきた桜田にいつもの元気はなかった。
「前例のないことに挑戦しているのだから、簡単に答えが見つからないのはわかっているのだが」
 教員資格を持っているアスリートが相応しいというのはわかっているが、人脈も伝手も何もないと嘆いた。
 しかし、相談されてもどうしようもなかった。建十字や横河原などの現役アスリートは知っていてもスポーツに造詣(ぞうけい)の深い指導者との繋がりはまったくないのだ。指導者といえば育多や温守の顔が思い浮かぶが、彼らは教育のプロであってスポーツのプロではない。彼らを推薦するわけにはいかない。
「まあ、君に相談したところでどうにかなるものではないとわかっているのだが……」
「申し訳ありません。なんのお役にも立てませんで」
 しかし、頭を下げた時、不意に懐かしい顔が浮かび上がってきた。丸岡だった。彼は都立体育大学を卒業して教員資格を持っている。加えて、一流の卓球選手だ。更に、キャプテン経験が豊富でリーダーシップを備えている。彼なら力になってくれるかもしれない。そう思うと、一気に目の前が開けたような気がした。
「中学時代の同級生に教員資格を持ったアスリートがいます。彼に相談してみます」