翌日、年始の挨拶を兼ねて桜田の自宅を訪ねた。突然の訪問にも拘わらず笑顔で迎えてくれたが、わたしの後ろに建十字と横河原がいるのを見つけて思い切りのけ反った。幼馴染だと告げると、これ以上は無理というほど目を大きく開けた。しかし、その顔はすぐに柔らかくなり、一人ぼっちの寂しい正月だから大歓迎だと温かく迎え入れてくれた。
 リビングでコーヒーをご馳走になりながら、しばらく大リーグやヨーロッパのクラブチームの話に花を咲かせたが、それが一段落した時、建十字が話を切り出した。
「ふるさと納税にサイン入りの色紙……」
 予想外の提案だったようで、桜田は目を丸くしたまま右手を口に当てた。
「まさかそんなこと……」
 また言葉が切れた。かなりのインパクトを受けているようだった。
「いけると思うんですけど」
 横河原が覗き込むように桜田の顔を見ると、やっと冷静さを取り戻したのか、「ありがたい」と言って頭を下げた。
 彼はクラウドファンディングとスポーツ連盟への寄付依頼は検討していたが、それだけでは十分な資金を集められないという試算結果が出て、頭を抱えていたという。知名度のない夢開市に関心を示してくれる人は多くないというのが根拠だった。しかし、国内外に多くのファンを持つ建十字と横河原が協力してくれれば話は別で、一気に希望が湧いてきたと白い歯を見せた。
「自分たちの故郷に恩返しができれば僕らも嬉しいですから。なっ、」
 建十字が横河原に顔を向けると大きな頷きが返ってきた。その横で奈々芽も頷いていた。
「ありがとう」
 桜田が感極まったような声を出した。
          *  *
 これで教育特区本申請案の本格的な検討を始められると喜んだ桜田だったが、意外なところで壁にぶち当たった。スポーツ専門中学校というコンセプト、廃校になった中学校と小学校の活用、ふるさと納税をメインとした資金確保、ここまでは問題なかった。しかし、校長や教頭を誰に任せればいいのか、数多くのスポーツ専任教師をどう確保すればいいのか、スポーツと無縁の桜田に解はなかった。幹部職員の中にスポーツ関係者と繋がりを持つ者もいなかった。桜田は頭を抱えた。