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 旭は、工房から歩いて10分程のところにある商店街までやって来た。

 商店街の入り口にある自販機で缶のジュースを買うと、プシュッと炭酸の抜ける音が弾けた。

 一気に飲み、口元を手首で拭うと先ほどまでの光景が頭に浮かんだ。


「クソッ……腹立つ」


 空になった缶を片手で潰し、ゴミ箱に向けて放り投げるが端に当たり、歪な形になった缶が地面に落ちた。

 もう一度ゴミを拾い、捨てなければいけないという手間にも苛立ちチッと舌打ちをすると、自販機を置いている商店の店員が店から出てきた。


「旭、これお前だろ」


 地面に落ちている缶を指差し、ジトッとした目で旭を見た。


「拾うよ。今からやろうと思ってたんだ」

「……また親父さんと喧嘩しただろ?」


 ドキッとした。

 まさか、言い当てられるとは思ってもいなかった。


「……翔兄ちゃんは、何で分かるの?」

「いかにも“不機嫌です”って、顔に書いてるからな。お前は」


 ヘラヘラと笑いながら具体的に答えない翔にムッとする。

 翔は、22歳で漁師をやっている。

 今は、休みの時期で親戚が経営している商店の手伝いに来ているのだ。


「うるせー」

「まぁ、そう言うなって。今回は何で喧嘩したんだよ?」

「……花火なんか作りたくねぇ、俺は東京へ出たいって言ったら、家を継ぐ話になった」

「あー、いつものやつだな」


 理由を聞いても、翔はヘラヘラと笑うだけだった。