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 半年後。

 相変わらず平和な港町だが、旭は苛立ちを隠せずにいた。


「ったく、信じらんねぇ! 翔兄ちゃん! たい焼きをくれ!」

「おいおい。今日はどうしたってんだ? はい、たい焼き。まいど」


 商店では、冬になるとたい焼きの販売が行われる。

 つぶあんがたっぷり入っているが、安価でとても人気だ。

 たい焼きを受け取ると、頭からかぶりついた。


「今、会社の手伝いしてるんだけど『会社潰す気か!』って! 毎日スゲー怒られんの!」

「はは、親父さんも素直じゃねぇなぁ」

「天邪鬼すぎるだろ。東京へ行きたいって言ってもダメで、家業を継ぐって言っても……どうせ親父は俺を否定したいだけだ」

「そんなことないって。花火大会で旭が手伝ってた時、親父さん裏では嬉しそうにしてたぞ?」


 翔の言葉にコロっと「ほんとに?」と目を輝かせた。


「てか、こんなとこにいていいわけ?」

「え? ーーあっ!」


 用事を思い出した旭は勢いよくたい焼きを食べ、「ごちそうさん!」と言い商店を飛び出した。


「ったく。あんなに雅ちゃんとの約束を楽しそうに話してたのに、忘れるかね。そろそろーー来てる頃だろ」


 花火大会の翌日、雅は東京に戻った。

 戻ってからも、旭との交流は続いていた。

 雅は手術を受け、無事完治した。

 そして、長めの春休みに入った雅が今日から港町へ遊びに来ることになっていたのだ。

 旭の初恋が、動き始めるのであった。


 〜完〜