〇 学校・教室(本番当日)

赤、青、オレンジ、ピンク、緑、黄色、白、紫、水色
鉢巻をまいた生徒たちでクラスが熱気づく
同じクラスだったとしてもどの色の団になるかは完全にランダムだから敵同士だったりもする

他クラスの人とも交流できたり、先輩ともつながりを持てるイベントなんだそう
と言ってもコミュ障の私は誰とも話せていないけど
学校側が言ってるだけで、ぶっちゃけ同じクラスの友達同士で大体固まっているから私だけ場違い感


友だち B 「結香っ!同じチームな私たちくじ運良すぎだよね」

結香「ほんとだね!」


未だに上手く笑えているかわからない
あの日、教室にはいつもと変わらず私に挨拶をしてきたB
柊くんの話を聞いた今ならわかる


彼が彼女の記憶操作をしてくれたと知ったのはその日のお昼
やっぱりそうだったんだと腑に落ちた
Aは事件について知らないから私が今まで通りにすればいい


男子先輩「はーいこのクラスの白組代表!伝達事項があるから付いてきて」

結香「私行ってくるね」

友だち B 「うんー!いってらっしゃい」


クラスで色が混ざっているから代表を決めて総括の先輩の指示をみんなに伝えるという役割
総括である目の前を歩く先輩に指名されてしまった私
運がいいのか悪いのか忙しいおかげで何も考えなくてよかったことだけはありがたい


〇 学校・廊下(本番当日)


どんどん歩いていく先輩
少しおかしいなと思って声をかけようか迷ったその時、立ち止まった


男子先輩「なぁ、君気づいてる?すっごい濃くて甘い香りがするんだけど」

結香「えっと?」

男子先輩「あ!取って喰おうとは思ってないから安心しな。それよりその契約者くん──、一条と早く番わなきゃ君、狙われてるよ」

一条「おい、朱理!」

男子先輩(朱里先輩)「おー、お早いことで。関心関心。じゃ、花畑ちゃん『白組はお昼ご飯を一緒に食べよう』の伝達事項よろしく」


帰り際にぼそりと一条くんの耳元で男子の先輩もとい朱理先輩が囁くと一条くんの表情が一瞬だけ
ほんの一瞬こわばったことを私は見逃さなかった


〇 学校・校庭のテントの中(本番当日)


──そんな体育祭ももうすぐ前半が終わる
吸血鬼ってカンカン照りの太陽が苦手かと思いきや全くそんなことはないようだった
むしろ身体能力が高い分、普段の生活だと動きに物足りなさがあったりするのだろうか

一条くんはファンクラブの序列の高い人たちが交代制で日傘をさしていたり、扇風機で風を当てていたり、タオルや飲み物を手渡していたりしたのが見えた
同じハチマキの色のはずなのに一度も白組のテントに来ない一条くん

生徒会の人はみんな忙しくて自陣のテントに戻れていないのは分かるけど、生徒会の役員でもないただのファンクラブの人たちがひっきりなしに生徒会テントに出入りしているのはさすがにどうかと思う


『続いての競技は、借り物?それとも借り者?競争でーす!!出場者の生徒は速やかに整列して下さい。繰り返します──』


次の競技の放送が流れると、生徒会テントの方で悲鳴がおきた
どうやら一条くんが立ち上がって選手列に並び始めたからみたい


近くの生徒「お題で誰が選ばれるか気になるよね」


近くの生徒「ファンの人たちには悪いけど、会長は誰も選ばないでいてほしいかも」


近くの生徒「確かに」


『それでは競技のスタートです。合図のピストルをお待ちください』

──パァン

用意の合図もなくいきなり始まった


出遅れた人もちらほらいるみたいだけど、一条くんはそんなことなくてトップでお題箱までたどり着いた


引いたお題はなんだったのか、ズンズン白組テントへ近づいてくる
ざわつくテント内へ一条くんの声が届いた



「怜鳳、花畑さん!」


一瞬、空耳かと思ったけど間違いないみたい
だってみんなが一斉に私を見たから
なんでこんな大勢の中から私を呼ぶの......


一条くんと関わるようになってからなにかと目立ってばかり
でもここで行かなきゃ感じ悪いし順位が下がって得点も悪くなる


友だち B 「ほら、結香!呼ばれてんだから行きなさいよ」


私をテントの前まで引っ張りだし、背中を押された
まだ誰もゴールできていないみたいだけど、制限時間内にゴールできなければ失格となり、無得点になる


もう、どうにでもなれ!
ファンクラブの皆さま方から血祭りにあげられるのなんて怖くない恐くない
今はチームに貢献する方が大事なんだから


3人でゴールへ向かう
私たちが2番手だったみたい
うじうじ悩んでしまっていた私のせいで申し訳なさでいっぱいになる


『さて、2位の一条会長!借り者だったようですがそのお題はなんだったのでしょう!!』

司会の人がノリ良くアナウンスをし、いっそう注目される
うぅ、もう席に戻りたいよ

『会長のお題は、【男女それぞれ大切な人を連れてくる】です。』

係の人がお題を読み上げる
と各所からあがる悲鳴

『今、悲鳴がありましたが一条会長、お二人を選んだ理由をお聞きしても?』

一条「まずは大切なという部分ですが、大切にしている人は大勢います。学生生活では生徒会のメンバーやファンクラブの皆さんです。そのため生徒会のメンバーから怜鳳を選びました。ファンクラブの中から1人を選ぶことはできなくて最近良くしてくれている彼女を選びました」

『冷たくてクールな会長も1人を選びきれないこともある。新たな一面も知ることができました!お題クリアです』


『良くしてくれている......か』


グズリと胸の奥に刺さった言葉がなぜかすごく痛い
だって彼にとって私はただ血を分けてくれる契約者ってだけなんだから......
その後の競技に出場をしない私はずっとどこか上の空だったよと教えてもらったのはずっと後の事、閉会式後の着替えのときだった