〇 家・リビング(夜の食事中)

『連続女性吸血事件について、新しい情報が入りました。今日の夕方ごろ、犯人の吸血鬼が捕まりまったそうです。紅杜と偽名を名乗り、女子高校生を吸血鬼に変え、犯罪を無理に手伝わせていたとのことです。』


お母さん「今日帰りが遅かったから心配したのよ。事件に巻き込まれたんじゃないかってひやひやしたわ。」

結香「連絡しなくてごめんなさい。でも問題ないよ、ほら元気!」

お母さん「結香がいいんならそれでいいんだけどね。離したくなったらいつでもお母さんに言いなさい。家族は結香の味方なんだから。彼についても教えなさいよ」


最期にニヤッと笑たのは一条くんを私の彼氏だと思っているからだろう
まだ好きかどうかも分からないのに...

あのあと、一条くんが起こしてくれた時には外が暗くなり始めていて、家まで送ってくれた
柊くんの姿は見なかったからよくわからない
でも今一番気になるのは操られていた彼女


ただ操られていただけなら、私彼女にひどいことをしてしまったから月曜日に学校で謝らないと
恋は盲目とは言うし、彼女は悪くないのかもしれない
そう結論付けて週末を過ごした


〇 学校・生徒会室(HR前)


結香「えっと、柊くん?」

柊「やっぱり花畑さんのところにも来てたんだ」


私の右手に握られているものを見て顔を歪ませた柊くん
普段あまり表情が変わらない彼の感情


柊「もともと金曜の件について話すことがあって呼び出そうとは思っていたけど、こんな手紙入れてるやつがいたなんて......」

結香「書いてあること全部読んだけど、これが本当だったとして何が変わるの?柊くんは柊くんのままだよ」

柊「うん、知ってた。花畑さんは変わらず同じことを言うんだね」


『思い出せ、柊 怜鳳はダンピール。吸血鬼でも人間でもない不必要な存在だ。本当のことが知りたくばHR前に生徒会室に行くといい』

私の靴箱に入っていた手紙の内容だった
哀しそうに微笑む柊くんはなんだか愁い沈んでいるように見えた


柊「これ俺の内容『花畑結香はお前が記憶を操った。どこにも居場所のないお前がなお彼女と関わるのはなぜだ。花畑結香のほうにも手紙を入れた。生徒会室にて彼女に真実を話すべき』って書かれてる。」

結香「昔の私たちを知る人物がいれたことになるよね......」

柊「ああ」

結香「別に話さなくてもいいよ?元々話してくれる予定だった金曜日についてのことだけで」


私は無理に聞く必要もなと思い、踏み込まないことを選んだ
わたしにもお母さんには金曜日のことを絶対に話したくない
誰にでも、柊くんにだって話したくないこともあるはずだから


柊「いや、伝えておくよ花畑さんにだけ。」

結香「うん、やっぱり無理だと思ったら途中でやめてくれていいからね」

柊「ありがとう。だったらまずはどこから話そうか……────」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 
柊 怜鳳 said

俺は生まれたことすら疎まれる存在だった
それは実の家族も変わらずで
吸血鬼の父親と人間の母親のもとに生まれた俺

母親は俺が生まれてすぐに死んでしまったらしく
俺を引き取ったのは父親である吸血鬼だった
そんな父親は吸血鬼の女と結婚し子供を2人も受かった

俺の弟と妹
だけど今は顔も分からない
下の兄妹とは区別されていたから

義母はおれを汚いものかのように扱い、父親も俺には無関心だった
そんな両親を見て育った下の兄妹は俺をいないものとして扱った

俺の名前の由来もひどいもので、怜鳳の「怜」は憐れむの俗字として用いられるから、気の毒でかわいそう。「鳳」は凡+鳥から、吸血鬼でも人間でもない俺をあざけて付けたらしい

そんな家が嫌で外へ出ても、吸血鬼には出来損ないといじめられ、人間には薄汚い吸血鬼めと罵られた
そんな時に出会ったのが幼い頃の花畑さんだった人間の女の子
今と同じように昔の花畑さんも優しかった

幼い結香「きみだいじょーぶ?いたいの?」

幼い柊「みんなぼくをなかまはずれにするんだ」

幼い結香「きみはきみだよ?ねぇ、なまえは?わたしはハナバタ ユカっていうの!」

幼い柊「ヒイラギ レオ」

幼い結香「レオくん、ユカとあそぼ」

幼い柊「いいの?」


だけどそんな彼女との楽しい日々も家族が壊した
花畑さんを誘拐したんだ
普段名前すら呼ばないのに義母が『怜鳳すぐに広間に来なさい』と言って俺を呼び出した

何で呼び出されたのか理由なんて全く想像できなくて、家族の一員になれるかもと浮かれていたんだ
だけどそんな考えはすぐに崩れ去った
広間にいたのは父親・義母・弟・妹、そして怪我をしていて髪もぐしゃぐしゃな花畑さんがいた


幼い柊「ユカちゃんになにをしたのさ!」

義母「あんたにこんな人間のオトモダチがいたとはねぇ」

弟「おんなのこのちっておいしんだね」

妹「あんんたのくせにちをひとりじめして!」

父親「怜鳳、この子の記憶を消しなさい」


俺と関わってしまったばかりにユカちゃんに怖い思いをさせてしまった
せめてもの償いにと幼い花畑さんに俺の吸血鬼の個体特性を使って記憶を操作した


吸血鬼の個体特性は基本人間にし効力を発揮しない
だけどダンピールの俺の個体特性は吸血鬼に対しても聞くとわかってからはすきを見計らって家族にも使った
俺の存在を記憶から消すことと花畑さんについても何も思い出さないように

その後本当に一人きりになった俺を拾ってくれたのが由良だった
一条由良、吸血鬼界の始祖......本家の血筋の吸血鬼
まだダンピールなんて珍しいはずなのに疎むどころかむしろ歓迎してくれた

だから俺は由良と花畑さんのためならなんだってするよ
多少手が汚れることだとしても厭うことはない
2人が幸せなら俺も幸せだから

柊 怜鳳 said 過去・想い fin
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柊「────……って感じかな。もし昔の記憶を戻したかったら戻せるから」

結香「ううん、戻さなくていいよ。柊くんの優しさだもん。昔の私に代わってお礼を言わせてほしい、ありがとう」

柊「お礼を言われることはしてない。むしろ危険に晒してしまったのは俺のせいだかr 結香「柊くんは悪くないよ!」」


柊くんはずっと自分を責め続けてきたんだと思う
でも全然彼が悪いとは思わない
むしろ彼の家族、いや、家族だった吸血鬼たちの方が悪い

自分の息子に、兄に、血は繋がっていなくても夫の連れ子に
吸血鬼や人間の子どももその子供たちを咎めなかった親たちも
ひどいことができる方が悪いに決まっている


柊「金曜日のことはお昼休みに話すよ。今は頭冷やしてくる」


そう言うと生徒会室を出た柊くん
すると見計らったようにかちゃりと会長室の扉が開き、私を手招く


〇 学校・会長室(HR前)


一条「花畑さん」

結香「はい、なんでしょう一条くん」

一条「いくら怜鳳に危険がないからって近すぎ。触ってもいいのは俺だけなんだからさ、もうちょっと自覚持ってほしいかな。」


ひょえ!お顔が近い!!
柊くんとは隣同士で話しただけでべつにそこまでくっついてないのに
引っ付いていて近いのはむしろ一条くんの方では?!

昔の記憶を知った私に気を使ってかずっと続けている頭なでなで
そろそろやめていただきたい
私の羞恥心がそろそろ限界でこのままだと私の頭がオーバーヒートしちゃって気を失いかねない


結香「そうそろそろHRの時間だから私いくね!一条くんもクラスに遅れないようにね、それじゃ!!」


一条「あと一息な気はするんだけどな......手ごわいな花畑さん」


急いで慌ただしく会長室を後にした私には一条くんの声なんてもちろん聞こえていなくて、教室に着いた時に遅刻しそうで猛ダッシュできたということで顔が赤い理由を何とかごまかした