「なんか変な感じ、、、」胸元についたバッジを見てため息をつく。
あの後頑張って取ろうとしたが駄目だった。制服が破れそうになっても取れないんだもん。
なんだかんだで遅くなっちゃったし。
ふと、授業の問題が宿題になっていたことに気づく。あ、めんどくさー。
そう思っていると後ろから誰かにぶつかられた。バン!
衝撃で転びそうになる。痛った、、。後ろには同じ制服のヤツ。うわ。確か、同じクラスだったはず、、。
「ごめん!大丈夫だった?」ああ、思い出した。宮乃、宮乃楽。そういえば前の席なんだった。
「大丈夫、こっちこそごめん」なんで謝ってんだろ、私。
まえを見るとまだ宮乃がいた。キョトンとした顔でこっちを見ている。
「お前、深山じゃん!体調大丈夫だったかー?まあ、いいや一緒に帰ろうぜー!俺今日、ホシュー受けてて遅くなっちまってよー」
え、なんで?あなたと私ろくに喋ったこともないじゃん。といういらだちをかくしつつ承諾する。「あ、うん」
「いやー深山って意外と目立ってるよなー。」「え?」本音が思わず出てしまった。
きょとんとしている私なんかに目もくれずに宮乃は続ける。
「見た目は真面目そうなのに全然そんな事ねえんだもんなー、何気に成績は優秀だし」
その瞬間宮乃の声が一切私には届かなくなった。何、こいつ。
「私、用事思い出したから先行くね。じゃ。」そう宮乃に行って走り出す。
後ろで宮乃がなんか言ってたような気もするけど知るかそんなの。
呼吸が荒くなる。なんであんなこと言われなきゃなんないわけ?気持ち悪い。頭の中ぐちゃぐちゃだ。アノ時の事が思い出される。
誰も追いかけてはこないのに。走るスピードはますます速くなっていく。アレ?止まれない。
前を見るとそこは横断歩道で、赤信号になったばかりだった。車だって普通に通っている。ヤバイとも思ったけどもういいやとも思った。
あと一歩踏み出せば車道に出るとなった時。ぐいと何かにリュックサックを引っ張られる。強い力だった。少なくとも私のスピードを0にしてくれるくらいに。
それによって私は歩道に連れ戻された。一瞬何が起こったのかわからなかったが目の前をダンプカーが通るのを見て途端に恐ろしくなる。ハッと我に返って後ろを見る。
「なにしてんねん。日那。先行くな言うたやん。花子が遅れとるから少し待つぞ」和装のまま、身長だけのびているアイツ。
「コウ、、、?」私の顔を見るとコウに少しにらまれる「そやけど何?」。
「身長、伸びてる、、!」私がコウを指さすと、なんだそんな事かと言わんばかりにため息をつかれる。
「ああ、うん。そやな。」声からも面倒くさいオーラが漏れている。
「止めてくれたの、コウ?」そう聞くとコウが顔をそらす。「、、、知らん。」ぶっきらぼうにそう答えて静かになってしまう。
普通なら気まずい所だけど、今の私にとっては何も聞かずにいてくれたのが少し心地よかった。
「ありがとう。」そうコウの背中に向けていうと「、、、ん。」と短く応答してくれた。
ふと道の向こうから「遅れてごめん!!!」と花子さんの声が聞こえてきた。、、と思えばもう目の前にいる。あ、オバケだもんね。
「全然大丈夫だよ!」今度のは嘘じゃない。
私の顔を見た花子さんは「日那って可愛かったのか、、!」と驚いている。
「え?」私と私じゃない別の声が重なる。コウだ。「どうかしたの?二人とも」と花子さんが聞いてくる。
「いや、言われ慣れてなくて。そういうの、、。ありがと。」私がそういうと、コウが顔をしかめた。
「日那は可愛いなんて似合わねえだろ。」冷ややかにそう言われると何気に傷つく。まあ、確かに似合わないかもだけど。
「はいはい、そうですねー」さっきの心地よさはどこへ?って感じだわ。
「んじゃ、早くこいつ送ってくぞ。つか花子、日那の入学手続き書類、ちゃんと書けよな」コウのその言葉に驚く。
「え!?オバケにも入学手続き書類とかあんの?てか、私、死ぬ訳?」オバケにはそんな面倒臭い物ないと思ってたから結構驚いた。
それに、オバケの学校に入学するなら私もオバケになんないとなんじゃない?
「そんなのもあったっけねえ、、。あ、日那大丈夫だよ!生きたままでも入学することは可能だし。前例もあるから。」
自信満々に言う花子さん。それにコウがツッコむ。「一人だけな。」
前例があるって事は昔の生徒の中にもオバケ学校に入学した人がいるってことか。ん?花子さんの話を聞いてふと疑問が浮かぶ。
「あれ、でもさ私たちって1期生なんだよね?オバケ学校の」私の質問に呆れたようにコウがこたえる。
「そうだよ。つかバッジにも書いてあんだろ」自分のバッジを指さされ見てみても1期生と記入がある。やっぱり疑問が残る。
「なら、どうして前例があるの?1期生が一番最初じゃないの?」私の質問に花子さんが不思議そうに答える。
「オバケ学校は0期生からだよ?あ、日那は知らなかったか。ごめんごめん」へえーオバケの学校って0期生からなんだ。
似ていると思ったけど意外と人間世界と違う事あるんだなー。ふと見るとそこはもう家の近所であと2分もしないうちに家に着く。
「教えてくれてありがと。あ、明日ってどうすればいいの?」私がそういうと花子さんがおちゃらけた声でいう。
「大丈夫、大丈夫!人間世界とそんなに変わんないから。」そんなもんなのかなあ。
「おい、着いたぞ」コウがぶっきらぼうにそう言う。「ええー!まだ日那としゃべりたいよおー!」
コウは文句を言って帰ろうとしない花子さんの襟元を掴み「じゃ」と短くそう言ってものすごい速さで元来た道を戻っていく。
「またねええええ」という花子さんの声だけがかすかに聞こえてくる。
慌てて「またね!送ってくれてありがとう!」と自分にしては大きめの声で返す。
ハッとすると誰もいないところに話しかけているヤバイヤツだと思ったのかご近所さんが白い目でこちらを見ていた。
恥ずかしくなってそそくさと自分の家に入る。なんだろう、この感じ。いつもと違うけど悪くない。
だが、彼女は忘れていた。
いつもとは違いちょっぴり幸せな気分の自分にまだ強敵が待ち受けている事を。