私はへクセに連れられてモッペル、それにスカーゲンと共にリュメル様の執務室へ参りました。ご報告を受けたリュメル様は顔色一つ変えず、冷酷な表情をされたままです。そして冷たく言い放たれました。

「フロリアン、とても残念だ。君は伝統あるベリューム家の公爵夫人。事もあろうか、僕の部下とそういう関係だったとは……見損なったよ」
「ご、誤解でございます。リュメル様!私は合意なく押し倒されたのです!」
「……スカーゲン?どうなんだ?」
「申し訳ございません。私は閣下の大切な御夫人を愛してしまいました。フロリアン様も私に好意を抱いてると確信しております」
「そんな……何を勘違いなさってるの!?」
「フロリアン様は拒否されませんでしたので」

それは驚きと恐怖からです!カラダが固まって動かなかったから!

「へクセ、モッペル……君達はどう思う?」
「はい、スカーゲン様がお越しになる度に奥様は生き生きとなされて……まるで恋人と接するような振る舞いでしたわ。私は二人のご関係が怪しいと睨んでおりましたの」
「……そうか」
「御主人様、私が給仕した際はソファーで抱き合っておられました。とても激しく愛し合い……何と申しますか、お恥ずかしい限りでございます」
「……もう分かった」

何が分かったって言うの!?

「──ち、違う……違います!リュメル様!」

正直に申せば、私は確かにスカーゲンと会うのがとても楽しみでございました。でもそれは虐げられた私の境遇から一時的に解放され、この国の行く末について自分の考えを聞いて貰える貴重な時間だったから嬉しかったのです。そんな時間を共有した彼の事は信頼してましたし、勿論好きでした。だからと言って公爵夫人である私は、彼とそのような関係になりたいなどと望んだ事は全くございません!

私は言葉を選びながら弁明に努めて参りましたが、リュメル様はお聞き入られるご様子もなく、それどころか最終宣告なされてきました。

「フロリアン、もはやこうなってしまった以上、いつかは外に漏れるだろう。その前に手を打たなければならない」
「どう言う事でございましょう?」

「僕は君と離婚する!」

「り、離婚ですって!?リュメル様、何度も申し上げますが私にやましい気持ちはございません!」
「抱き合ったのは事実だ。目撃者もいる。君がどう気持ちを弁明しようがこの『事実』は変わらない」
「だから──!」

ふと周りを見渡すとへクセやモッペル、それにスカーゲンがお互いを見合わせ、薄笑いを浮かべてるご様子が目に映りました。

──まさか、これって仕組まれてた事なの!?だとすると目的は何ですか!?

「フロリアン、離婚するとは言え、君はベリューム家の御令嬢だ。放り出す訳にはいかない。そこでどうだろう、僕の政治秘書になってくれないか?」

は?離婚はするけど、面倒なお仕事は押し付けたいって事?冗談じゃありません!それよりも大切な事をお忘れです!

「リュメル様、貴方様は婿養子に来られたのです。離婚の前に、離縁するのが筋かと存じますが!?」

そう、ベリューム家の私と離婚するのであれば婿養子である貴方こそ、ベリューム家と縁をお断ちにならないとおかしいです。

「それは出来ない。何故なら僕は陛下の命でベリューム家を継いだからね。離婚の件は事情をご説明すれば了解してくださるだろう」

私はこの時、全てを悟りました。このお方達はベリューム家を乗っ取りに来られたのだと。そしてここに私の居場所はないって事を……