私は顔を赤らめながらペンを握りました。でもその手をスカーゲン様が握り返してきたのです。

「え?あ、あの……」
「フロリアン様、ペンなど私が拾って差し上げますよ」
「あ、ありがとう。……でも拾いましたから、もう大丈夫ですわ」

私は目をそらし、お互いに立って対面で向き合っていました。離れようにもスカーゲン様が私の手を握ったままなのです。

いつまで私の手を握ってらっしるのでしょう?と言うか私、男性に触れられた経験など殆ど皆無でして、余り免疫がないのでございます。ましてやハンサムなスカーゲン様に触れられるなんて、何と申しますか……つまりドキドキしております。

「フロリアン様」
「は、はい」

スカーゲン様が私を見つめていらっしゃる。い、いえ、この雰囲気は推奨されませんわ。私は公爵夫人です。愛されていないけどリュメル様と言う御主人様がおいでです。
でも免疫のない……いえ、正直に申せば男性経験のない私は、この場をどう対処したら良いのか明確な答えが見つかりません!

そんな動揺してる私に更なる予測不可能な事態へと発展致しました。何と、スカーゲン様に抱きしめられたのです!

「い、いけません!」
やっと言葉が出た。でもカラダが固まっています。

「フロリアン様が好きです!」
「こ、こ、こ、困ります!」
「いけない事とは分かっていますが、何度もお会いしてるうちに私は貴女の事ばかり考えるようになりました……もう、自分を止められません!」

スカーゲン様にきつく抱きしめられ、私はなす術もございませんでした。そして私はソファに押し倒されたのです。

正直、怖いです。抵抗しなければ……声を上げなければ……と頭では分かっているのですが、そう思えば思うほど何も行動に起こせません。私は自分が自分でないような感覚に陥っていました。

──その時です!
タイミング悪く、モッペルがお給仕に現れたのです!

「失礼します。お紅茶をお持ち……」

ガッ、ガッシャーン!

私のカラダの上へおい被さるスカーゲン様を見て、いわゆる『情事』と誤解されたモッペルはお紅茶を床へ落とし、大きな音を立てました。

「お、奥様!」
私はハッとしました。やっと自分を取り戻したのです。
「ち、違うの!私は……!」

血相を変えたモッペルは大声を上げてヘクセを呼びに応接間から走り出しました。
「へクセ様、大変でございますっ!」

「違うってー!スカーゲン様、いい加減にしてください!」
「も、申し訳ございません。フロリアン様」
「使用人たちにしっかりとご説明して、誤解を解いてくださいねっ!それからもう二度と貴方とはお会い致しません!」

やがて、誤認報告を受けたであろうへクセがモッペルと共に応接間に現れました。へクセは心なしか喜んでる様にも見えます。

「あーあ、やっぱりそう言う仲だったのね。奥様」
「違います。スカーゲン様?ご説明なさって!」
「はい。……私たちは愛し合っています」

──な、何をおっしゃって……!?

「まあ、スカーゲン様とお会いしてる奥様のオンナらしい仕草から、私はとっくに恋仲だと気づいていましたわ。でもこれは大問題です。リュメル様の秘書として、見逃すわけには参りません」