「フロリアン、お前の部屋のこと、すっかり忘れていましたわ。──あ、そうだわ!屋根裏にしましょう。ねっ、屋根裏へ行って頂戴!」

へクセは薄笑いを浮かべている。その傍らに控えるモッペルや新たな使用人たちも笑みがこぼれ、私を見下し馬鹿にしている雰囲気が伝わりました。それにしても──

「屋根裏ですか!?」
「広い空間でしょう。そうそう、ユリカだっけ?お前も一緒にね。まあ、お前らにピッタリの部屋ではないかしら?オーホホホホホ!」

私とユリカ、ディーナ以外の笑い声が聞こえてきます。しかし、ディーナが怒りを滲ませながらへクセへ詰め寄ってくれました。
「へクセ様、それはあまりにも酷い仕打ちではないでしょうか?私はベリューム家に長年仕えてきた者として、お嬢様のこのような姿を見るのは耐えられません!」
「ほーう。ならばお前はクビよ。執事などいくらでもいるわ。モッペル、新たに雇いなさい」
「かしこまりました、へクセ様」
「ま、待ってください!私なら平気です。だからどうかディーナのことはお許しください!」
へクセのディーナに対する突然の解雇通達に、私はベリューム家の人間として驚きと共に必死で嘆願すると……

──パシーーン!

またしてもモッペルに頬を打たれました。
「ううっ……」
「口答えするなって言っただろ!フロリアン、このお屋敷ではへクセ様のお言葉が絶対なのだ。お前らはさっさと屋根裏へ行って掃除でもしとけ!それから爺さんは荷物纏めてとっとと失せな!」
ディーナは拳を握りしめ、細い腕を震わせながら「失礼する!」と出て行きました。

ああ、なんということでしょう。私はディーナを守れない不甲斐なさに涙が溢れてきました。でも泣いている姿を見られたくありません。私は即座にユリカと屋根裏へ向かい、そして……
「ユリカーー!」
薄暗く埃っぽい屋根裏の片隅でユリカを抱きしめて泣きました。
「お嬢様……お可愛そうに」
ユリカは私が子供の頃から使用人として働いている女性です。早くに亡くなった母や姉妹のいない私にとっては『姉』のような存在でもあります。身長の低いユリカに背を丸めて嗚咽する私に、彼女は優しく背中を摩ってくれました。

***

私は結婚してから日常が一変しました。正妻がお化粧もせず、長い髪も結わず、ボロボロの装いで外に出られるわけもなく、お屋敷に監禁されたようなもので、ひたすら掃除する毎日となりました。でも掃除には慣れています。財政が傾いたベリューム家に使用人を多く雇う余裕はなかったので、私とユリカが家事を担っていたのです。
ただ、お食事はこれまでに経験のない悲惨なものでした。豪華な食事の食べ残ししか与えられません。それでも生きていくには頂戴するしかないのです。

世間では『フロリアン公爵夫人』ともてはやされているかもしれませんが、お屋敷の中では使用人以下の奴隷のような暮らしをしております。

そんなある日のことでした。
突然、リュメル様に呼び出されたのです──