「僕の婚約者を紹介しよう。入っておいで」

ギィィ……とモニカがゆっくりと扉を開け、コツコツコツと靴音を立てながら、私は堂々と入場しました。リュメルは私をちらっと見ましたが、まだ気づいていない様子です。しかし、その後ろに控えていたスカーゲンが「あ……」と驚きの声を上げて立ち竦んでいます。

「リュメル閣下、この御令嬢に見覚えはございませんか?」
「えっ、いや?殿下、初めてだと思いますが……」

あら、カアラプシャン国のベリューム家ではボロボロの姿しか印象にないので、着飾った私が分からないようですね。では、私からご挨拶致しましょう。

「お久しぶりでございます、リュメル……様」
「ん?……んん!?」
「貴方の元正妻だったフロリアンをお忘れになったのですか?」
「な、なに、フロリアンだと!?ま、まさか……ええーーーーーーーーーっ!」

「リュメル閣下、僕はフロリアン公爵令嬢と婚約しました。一応、元御主人に報告しなければと思ってね」

私だと認識したリュメルは、驚きのあまり立っていられず、ソファーに座り込んでしまいました。そして震える手で私を指さしました。

「な、何で君がここにいるんだ?何故、殿下の婚約者なんだ?……じ、冗談にも程があるぞ!」
「リュメル……様、私はライクス王国へ亡命しました。そして殿下と婚約したのです」
「そんな馬鹿な……」

まだ「信じられない」という表情を浮かべるリュメルは、しきりにゲーニウス殿下を見ています。冗談だと早く言ってほしいのでしょうか?

「では、本題に入りましょう、閣下」
「ま、待ってくれ。本当にフロリアンなのか?まさか君が亡命して我がカアラプシャン国の機密情報を売ったのか!?」
「リュメル閣下、彼女からは何も聞いていませんよ」
「し、しかし……そうでなければ、ここにいるはずもない」
「フロリアンはライクス王国が保護対象として認めた要人です。そして僕の婚約者でもあります。……それだけです」
「…………」

リュメルはあまりにも突然の展開に茫然としているようです。殿下はそれを無視して話を続けました。

「さて、懸案だったカアラプシャン国からの密入国者について、これまで前外交主宰だったベリューム公爵と協議を重ね対応してきましたが、閣下になられてから犯罪を繰り返す者が爆発的に増加しています」
「……え?えーっと、それはご迷惑を……。陛下からも厳しく取り締まるよう命じられているところで……」
「我が国はもはや我慢の限界を超えています。この度はライクス王国で収容している一万人の密入国者を強制送還します。犯罪を繰り返す彼らが二度と我が国に入国できないよう、対応をお願いしたい」
「なんと、一万人も!?」
「ええ、そうです。それからペナルティとして全ての貿易を一旦停止する。もちろん、渡航も制限することになるでしょう」
「い、いや、待て!そんなことをしたら我が国の経済は破綻する!」
「ライクス王国はすでに多大な損害を被っています。これくらいの措置は当然だと思いますが?」
「で、殿下は圧力をかけているのか!?……我が国を追い詰めれば双方が傷つくだけだぞ!」

「フッ、これは宣戦布告……と思ってもらって結構だ、リュメル閣下」

リュメルは慌てふためいています。私は密かにほくそ笑んでしまいました。それにしても、ゲーニウス殿下がカッコよくて素敵です!